研究課題
東ドイツ文学における時間と空間の関係を研究することから出発して、ドイツの図書館やアーカイブでの資料調査研究を推し進め、これまでの通史的な文学史把握に対抗するものとして、クロノトポス的な考察方法の可能性を提示することができた。東独文学は党主導の文化政策と検閲の影響を強く受けていたが、監視の網をかいくぐって読者聴衆を見出し、小さな「公共性の孤島」を作り出すことも可能であった。特に注目されたのは、1970年以降に活発になったいわゆるザミスダート(地下出版)文学である。この非公式的な公共の場では社会的、政治的、経済的なヒエラルキーは取り除かれ、メンバーの対等な関係が保証されたし、国家のイデオロギー言語も完全に放棄されることもできた。そこで議論されたのは公式の場では語り得ない主題で、これによって党公認の公共性の場を補完する役割を果たした。この空間は、多くの点で西側市民社会の公共性とも共通するが、「公衆の原理的な開放性」(ハーバーマス)とは違って、東ドイツの小さなサークルはあくまでも詩人、作家たちによる閉じた組織であった。それゆえに本研究では「公共性の孤島」と呼ぶことにした。そしてこの性格を考える場合に、バフチンの「クロノトポス」ほどふさわしい概念はないということが明らかになった。そればかりではなく、「ヘテロトポス」的なクロノトポスやユートピア的なクロノトポスなど、この概念の精密化にも大きく貢献することができた。研究の成果としては、査読制学術雑誌『早稲田ブレッター』に「1980年代の地下出版雑誌にみるもう一つの東ドイツの声」を発表して、多様性をもつクロノトポスの概念を発展させた。2015年秋にはドイツからも研究者を招聘して、日本独文学会のシンポジウムを主催したが、2016年度にその記念論集を責任編集者としてまとめて公刊することもできた。
すべて 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Waseda Blaetter
巻: 23 ページ: 7-20
Bulletin of the Graduate Division of Letters, Arts and Sciences of Waseda University
巻: 61/ 2 ページ: 55-72
https://arneklawitter.wordpress.com