・戦前の学院派の審美主義の様相については、周作人の思想や態度を中心に、さらに深い考察を加えることができた。通俗的な文芸者たちは、資本主義(商業主義)社会での新しい審美主義の形態を大胆に模索していたが、沈従文のような戦前の純文学作家の中にも、商業主義的な社会の変遷に対応した文芸のあり方を模索する者たちがいたことを確認した。 ・文革後の審美主義は、まず、1980年代の美学ブームによって代表されるような、古典的美学(李沢厚などのマルクス主義美学も含む)の復活によって牽引されたことを確認した。しかし、実際個別に展開された「デカダンスのスタイル」は、古典的な真善美の全体的なバランスを突き崩そうとするものにあふれていたことを確認した。例えば、徐遅「ゴールドバッハの予想」は、デカダンスの貴重な意味を訴えるルポルタージュであり、劉索拉「あなたには他に選択肢はない」も、作中で、デカダンスのスタイルの尊さを描いた作品であった。7月の王暁漁氏の講演にもあったが、80年代の豊富な「デカダンスのスタイル」の展開は、現在にまで至る、中国文芸の最も深奥で最も普遍性と世界生を備えた作品群を醸造することになった。 ・1990年代以降の市場主義(商業主義)全盛期においては、八〇年代(以降)生まれの作家らが牽引することで、全く新しい視聴覚メディア作品やジャンル小説、ネット小説などが生み出されているが、それでも、戦前の周作人ら京派文人が生み出した古典的な風格や趣味主義を高く評価する批評家、研究家が、90年代以降も決して少なくないということを確認した。また、その一方で、秋に招いた作家閻連科のように、現実社会に対する強烈なコミットメントを志向し、1930年代以降脈々と形成されてきたリアリズム小説のスタイルに対して、総体的な批判・攻撃を行う作家が、かなり存在感を増していることも確認した。
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