28年度は本科研の最終年度であり、初年度に研究代表者、協力者がそれぞれ担当する敦煌説話文献に関して、初年度、次年度で月一回の研究会を経て、28年度には、1、作品概要・鈔本リストの作成、鈔本調査に基づく原文の確定、2、校訂した原文による日本語訳および語釈・注釈(注釈には関連する中国古典文献・日本文献の情報を含める)、3、先行研究リストの作成を行い、その成果を『敦煌説話文献訳注稿』(29年3月刊行)として一冊の書物として刊行した。 研究代表者および協力者の担当した文献名をここにあげる。研究代表者(伊藤美重子)は「王陵変文」であり、協力者の氏名と文献名は次の通りである。 三瓶はるみ「茶酒論」「燕子賦(乙本)」、和田和子「韓朋賦」、塚越千史「晏子賦」、森田さくら「葉浄能詩」、大西由美子「舜子至孝変文」である。 和田和子は中国と日本に伝わる韓朋に関する説話の詳細な調査を行い、67種の資料を収集し、前掲書に掲載した。また「敦煌本『韓朋賦』と「語り」の時空」(『お茶の水女子大学中国文学会報』36号、2019、4)として日中の説話比較を踏まえた論考を発表した。韓朋賦の他にも、「舜子」に関する説話も日本にも多く見られ、大西由美子は舜子に関する日中の資料の収集につとめ「舜子説話関連資料」として前掲書に載せている。 敦煌文献に見られる説話が、日本に伝播しているという事は、中国中央での民間説話の流布を知る手がかりになる。敦煌の説話と関連する日本の説話には、少しく変形が見られる場合があり、今後は、このような変形のあり方について考えることで、日中間の趣向の異なり文化背景などの相違についての考察を深めたい。
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