研究課題/領域番号 |
26370410
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
小川 恒男 広島大学, 文学研究科, 教授 (20185507)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 六朝楽府 / 杜甫 / 陳後主 / 返照 / 臨高台 |
研究実績の概要 |
本研究は主に六朝楽府を研究対象とし、新たな言語表現が生み出されるメカニズムを究明することを目的とする。平成26年度は六朝楽府を読み進めるに際し、「1先行研究の収集と整理 2『楽府詩集』訳注の作成 3六朝楽府の語彙の収集と整理」の3項目を研究実施計画としていた。 そこで本年度はまず計画2に該当する成果として「六朝楽府訳注(15)」「六朝楽府訳注(16)」を公表し、六朝楽府13首の詳細な訳注を作成した。この内、(16)の訳注で扱った陳後主叔宝「臨高台」詩に見える「日落雲傍開」という句について、作中人物が夕陽に敢えて背を向け、沈んでいく太陽の光に照らされる自然物を描写している点に注目した。また、「開」という語が具体的にどのような意味を表すのかを検討し、計画1により先行研究の収集と整理を行った。その結果、六朝期から唐代までの夕景を描写する詩には「返照」「反景」という語がしばしば用いられるが、六朝から初唐にかけての詩では作中人物の視線がほとんどの場合夕陽に向けられており、敢えてそれに背を向けた描写は稀であることが分かった。盛唐の詩人である杜甫は「返照」の語を好んで用いたが、キ州に寓居していた時期になって初めて夕陽に背を向ける描写を試み、「返照」と題する詩では「返照開巫峡」という句で陳後主と同じように「開」という動詞を、恐らくは「明るい」という意味で用いていた。これらの内容を「杜甫『返照開巫峡』について」という論文にまとめて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の基礎作業である「『楽府詩集』訳注の作成」については、20首程度しか読み進めることができず、当初の計画よりもやや遅れていると言わざるを得ない。しかし、詳細な訳注を作成することにより、詩に用いられている語が六朝詩でよく用いられる語なのか、あまり見受けられない語なのかを含めた語彙データが集積しつつある。また、「研究成果の概要」で言及したように、「返照」「反景」「開」といった語について六朝から唐代までの語誌的な展開について調査し、その成果を発表できた点は、当初の計画よりも進展があったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」で言及した語彙データの集積により、六朝楽府に用いられる語の内、どれがあまり見掛けない語なのか、またどの詩人にそのような新しい表現が多いかが次第に明らかになりつつある。したがって、このような語彙データの充実するにしたがって、研究対象の絞り込みがより容易になると思われる。 今後はそれらの非頻出語彙、或いは非頻出語彙を多く用いる詩人に絞って調査、研究を進めることが可能だろう。 語彙データの正確性を求めるためにも「『楽府詩集』訳注の作成」はより丹念で地道な調査が不可欠だと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた書籍の出版が遅れ、購入できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
上に述べた書籍が本年度中には刊行されると思われるので、その購入に充てる計画である。
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