研究課題/領域番号 |
26370410
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
小川 恒男 広島大学, 文学研究科, 教授 (20185507)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 六朝楽府 / 何遜 / 杜甫 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き『楽府詩集』に収められた六朝楽府詩の訳注を作成する作業を中心に研究を進めた。その成果として「六朝楽府詩訳注(二十)」「六朝楽府詩訳注(二十一)」を「中国中世文学研究」68号・69号に掲載した。本研究の課題「言語実験の場としての六朝楽府に関する研究」に即し、詩に用いられた語句について先行例の有無、来歴などの語誌情報をできるだけ詳細に検討して訳注を作成した。これらの訳注によって六朝楽府詩に於ける詩的言語の継承と発展の過程の相をある程度見通すことができるようになった。また、先行例を持たない新しい語が集中的に現れる詩篇、詩篇の一部を抽出することによっていわゆる言語実験がどのような条件の下で可能になるのかを観察できた。 これらの研究成果を踏まえ、新たに「何遜詩訳注(一)」を作成し、楽府詩だけでなく六朝詩全体を俯瞰するための視座を設定しようと考えた。何遜は六朝詩と唐詩との結節点に位置する詩人のひとりであり、彼をモデルケースとして六朝詩に於ける言語実験がどのように唐詩に受け継がれたか、或いは受け継がれなかったかを観察できるだろうと予想できるからである。 『杜甫全詩訳注(三)』(下定雅弘・松原朗編 講談社学術文庫)に共訳者として参加した。杜甫が『文選』を介して六朝詩の成果を吸収した上で、自らの詩作に活用した詩人であるという観点から本研究の成果を訳注の作成に活かせたと思う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の基礎的作業は六朝楽府詩の訳注作成だが、研究の目的と照らし合わせてみると、詩に現れる語句の内、どれが当時の一般的な語句であり、どれがあまり先行例のない「実験的」語句なのかを見極める必要がある。そのため、ほとんどすべての語句について先行例の有無の確認から始めなければならず、この作業に予想よりも遥かに膨大な時間を取られてしまった。先行例のある語句であっても、どのような詩人たちによって受け継がれてきた語句なのか、継承の過程で語句の意味に変化がなかったか、などの確認に時間が掛かってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は本研究の完成年度に当たるので、現時点での成果を踏まえ「六朝楽府詩語詞典」の初稿を完成させる。現在500語あまりを収集できているので、700語程度を目標として語誌データの整理を行いたい。 この「六朝楽府詩語詞典」は、先行例のある語句の場合は先行例の指摘と六朝楽府詩での用法、語句の意味に変遷があればその記述。先行例がない語句の場合は文脈などから想定できる意味を指摘し、意味を確定する過程を記述する。この意味を確定する過程こそが「言語実験の場」の様相を明らかにすることになると考えている。
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