本研究は六朝楽府を主な研究対象とし、新たな言語表現が生み出されるメカニズムを明らかにすることを目的とした。研究成果の大部分は「六朝楽府訳注」「何遜詩訳注」の形で公表した。 これらの「訳注」の作成は、もちろん作品の内容を分かり易い日本語に翻訳する作業が中心になるが、本研究の目的に即し、できるだけ詳細な【語釈】を付した。実はこの【語釈】は本研究の最も重要な成果である。それぞれの語が作中でどのような意味で用いられているのかを明らかにするだけではなく、どのような歴史的背景を持つのかを可能な限り具体的に追跡して記述した。当然のことながら、六朝というほぼ400年に及ぶ時間の中で、それらの詩的言語は大きく①既存の詩語、②既存の詩語に一部改変を加えたもの、③詩人が新たに創作したものの3つグループに区分でき、通時的に唐代以降の文学作品に引き継がれたものもあれば、その場限りで消えていったものもある。六朝楽府の訳注を作成するという作業を通じて抽出した語句に対し、上に述べたような語誌的な記述を加え、整理することによって六朝楽府に現れる言語表現の一覧が出来上がるはずであり、今の段階では整理がまだまだ不充分ではあるが、おおよそ700語あまりの項目を立てられるだけの資料を収集できた。 この資料を基礎にして何遜詩の訳注を作成する作業を研究に加えた。まだ不充分な資料ではあるが、六朝詩を読解するのにどの程度有効であるかを確認してみたかったからである。読解を完了した作品数はまだあまり多くないのだが、これまでの研究成果を踏まえることにより、従来の読解とは異なる解釈が可能になった作品もいくつかあり、かなり有効なのではないかという手応えを感じている。
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