研究課題/領域番号 |
26370411
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
秋吉 收 九州大学, 言語文化研究院, 准教授 (90275438)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 中国近代文学 / 日本近代文学 / 台湾 / 魯迅 / 周作人 / 『現代日本小説集』 |
研究実績の概要 |
中国文学の主流から離れて日本近代文学に注目した魯迅および周作人のより深い意識に迫ることを企図した。視点としては、やはり主流から外れた辺境の文学者、徐玉諾という作家に改めて注目した。また、『現代日本小説集』にも収録されるが、中国と日本の近代文学を切り結ぶ上で最も注目される、芥川龍之介、佐藤春夫の文学について、台湾等の動向を一層深く分析するとともに、今年度はその具体的なテキスト分析を開始したことが特記されよう。詳細な調査分析を鋭意進めている。 実績として、著書を2冊刊行すると同時に、3篇の学術論文を執筆した。単著論文、「魯迅与徐玉諾-囲繞散文詩集《野草》」(季刊『漢語言文学研究(河南大学)』2016年第1期〔第7巻総第25期〕、『中国現代、当代文学研究』2016年第6期〔中国人民大学書報資料中心〕転載)は中国語による執筆。上記の作家徐玉諾について、魯迅の代表作『野草』との関連を中心に研究。該論文は徐玉諾の故郷たる河南省の最も権威ある学術誌に掲載、その後全国誌に転載され、中国にても高い評価を得た。「台湾における芥川龍之介受容の諸相」(『言語文化論究』第37号 九州大学言語文化研究院 2016年10月)では、芥川受容の実際を、大陸中国から台湾へと焦点を移し、詳細に分析検討を行った。その結果、中国とは全く異なる様相が改めて浮き彫りになり、中国と日本の文学交流を照射する重要な視角としての台湾の意義が改めて明らかになった。「『現代日本小説集』における佐藤春夫―その版本及び訳文の検討を中心に」(『言語科学』第52号 九州大学言語文化研究院 2017年3月)では、種種の原本並びに翻訳テキストの一字一句に至るまで詳細に校合を行い、翻訳者魯迅の意識の深層を探るとともに、従来見落とされてきた少なくない事実を発掘した。結果、魯迅ひいては近代中国における翻訳の意義と問題点等がより具体的に解明できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績欄に記入したように、当該研究に関する著書を2冊、学術論文を3篇執筆、また国内および国際学会での研究発表を計4回行うことで、研究三年目の目的は、基本的に充足できたと考える。著書について、単著『魯迅―野草と雑草―』(九州大学出版会、2016年11月)は魯迅および周作人の研究成果をまとめたもので、本研究費による遂行研究の内容を少なからず含む。共著『世界各国魯迅研究精選集 日本魯迅研究精選集』(2016年8月、中央編訳出版社)、分担執筆「魯迅《野草》世界中的芥川龍之介」では、魯迅における芥川の意味について、従来言及されたことのない観点から考察を行い、中国においても高い評価を得た。 なお、口頭による研究発表の内容は以下の通り。「中国・台湾における日本近代文学の受容―芥川龍之介を中心に」(平成28年度第64回九州中国学会大会 活水女子大学 2016年5月15日)、「成ホウ吾与魯迅《野草》」(中国語)(『“2016魯迅文化論壇”国際学術研討会 魯迅――在伝統与世界之間』、於中国北京市 中央人民大学 2016年9月24日)、「“敵人”対魯迅《野草》的影響」(中国語)(『“跨語際対話”文芸評論国際論壇 世界性与民族魂当代文芸評論視域中的魯迅伝統会議』、於北京第二外国語大学 2016年9月30日)、「浅談泰戈爾文学在中日両国的差異性」(中国語)(『国際魯迅・タゴール学会学術論壇』 於インド ジャワハルラール・ネール大学 2016年11月12日)。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、『現代日本小説集』に収録された日本近代文学15作家のそれぞれの作品について、これまで取り上げられることのなかったもの(加藤武雄や江馬修など日本ですらほとんど注目されることのない作家)を中心に、調査を進めたい。これまで通り新聞雑誌など初出紙誌への掲載状況を詳細に調査し、中国への翻訳紹介の実態について分析を進める。また『現代日本小説集』末尾に付録として収められた「著者説明」も手掛かりに、魯迅兄弟が翻訳に当たって実際に使用した版本を確定し、入手経路等の具体的背景について検証する。同時に、魯迅兄弟の日本近代文学との接触状況について、日本留学時期、帰国後の文学活動を日記、回想記等に基づいて徹底的に追跡する。 さらに、『現代日本小説集』以外の、魯迅と周作人の日本近代文学への取り組みについても、考察を進める。『現代日本小説集』出版以前に、やはり魯迅周作人兄弟が編訳した外国文学アンソロジーたる『域外小説集』(1909)、『現代小説訳叢』(1922)に注目し、彼らが日本文学へと行き着く階梯についての考察を行う。最終的には、魯迅周作人の取り上げた作家に止まらず、近代中国における日本文学受容の全体像の解明を企図する。 また、詳細なテキスト分析をいっそう進めることも重視したい。種種の原本並びに翻訳テキストの一字一句に至るまで詳細に校合を行い、林ジョに始まるとされる近代中国における「翻訳」が、魯迅周作人兄弟に至って如何に変容したのか。近代中国における翻訳の意義と問題点について、実証的かつ深度ある研究を進める。 研究のまとめとして、日本及び海外の関係学会において積極的に研究発表を行うとともに、目標とする「中国における日本近代文学受容のデータベース」構築に向けても具体的な作業を行っていく。
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