【文献研究】『山海経』に所収される「馬」についての基礎的研究を行った。とくに「乗れば長寿になる」という神仙的要素をもつ「吉量(良)」「乗黄」について、それらが唐代に向けて皇帝シンボルとして受容される過程について整理した。A 経書注釈に多い皇帝の駱=白馬黒鬣の筆法を踏まえ、『山海経』にみる西方犬戎の白馬朱鬣の神仙馬「吉量(良)」が、後漢までには緯書『礼緯』において「周文王の瑞たる白馬朱鬣」に変身したこと、その天意を保証する緯書的な白馬朱鬣が、唐までには主に史書礼制において強い皇権を示す皇帝の瑞馬として受容された可能性について考えた。B 漢唐間の礼制において皇帝シンボルとなった白馬朱鬣の吉良(A)のほか、『山海経』の系譜にある六朝の志怪書『神異経』の神仙の乗る西方異界の白馬朱鬣を踏まえ、初唐には、国家的道教の台頭を背景に現れた老子遠祖伝説において、唐李王朝及び太宗の受命をも保証する神仙的瑞馬として「老子の乗馬たる白馬朱鬣」が新たに示された可能性を考察した。ABについては今後、順次、論文化の予定。 【図像研究】復職後の体調不良により、中国大陸でのフィールドワークは遂行不能だったものの、本研究による研究成果(「獣頭の鳳凰「吉利・富貴」について―乱世を翔ける吉鳥たち」)について台湾中央研究院より招聘講演の依頼があり、口頭発表を行った。主催者は中央研究院の劉苑如教授、コメンテーターは『山海経』の専門家・台湾政治大学(中央研究院兼任)の李豊楙教授。参加者には東アジア各国に留まらず、欧米の研究者(Harverd Uni等)も居り、とくに魏晋南北朝時代の図像資料と文献資料の摺り合わせについて、活発な討論が可能となった。
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