本年度は傅増湘の詩集の編纂に取り組み、これまでに収集したものに加えて幾つかの詩篇資料を補訂することができた。幾度かの校訂作業に予想外に多くの時間がとられたものの、ほぼ完成形に近い物ができたが、なお慎重を期するため校訂を継続しており、早期に学界に提供することとしたい。 学会での発表としては、北京大学人文学部主催の『北京大学第一回古典学国際シンポジウム〈中国古代語言、文学和文献研究的古典学視野〉』に招待発表者として招かれ、その際に「傅増湘與古玉研究――《尊古齋古玉図録序》考」を発表した。そこでは、傅増湘が瑠璃廠の骨董商として名を馳せた尊古齋が出版した古玉の図録に寄せた序文の解明をもとにただ古籍について造詣が深かっただけでなく、実は玉器についても深い知識と見識を持っていたことを明らかにした。これまで、傅増湘については古籍の大収蔵家としての理解しかなかったが、これによって傅増湘の古典学の世界が単に文献資料だけにとどまらず、古物研究を含めた総合的な視野から中国古典の世界の構築を探究せんとしていたことが明らかにできた。 傅増湘が活動した民国年間はいわゆる新文化運動が起こり、文化界では世を挙げて新しい流行に目を向けていた時期であった。そうした時代の潮流の中で、それに背を向けるようにして、ひたすら伝統の文明を伝えるものとしての古籍研究に邁進したのみならず、より幅広い視点から中国古典学の真髄とその醍醐味を探究したことは、今日の細分化した古典学のありかたする再考の一つの手がかりとなることを指摘した。
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