本年度は2016年8月(12日間)と2017年1~2月(9日間)、二回にわたって中国に赴き、実地調査を行った。主な成果は次のとおりである。 一回目の調査:貴州省三穂県においては、聖徳山を踏査し、山頂で行われた歌掛け行事について参与観察を行った。天柱県においては、協力者の協力のもとで、『王澤忠手抄歌本』の内容整理・校正を行い、酒宴歌の「生態」記録を完成させた。錦屏県においては、啓蒙郷の「大歌」について調査し、剣河県との境界地域で行われた高ハ村歌掛けについて参与観察を行った。その後同じ歌掛け文化圏に位置する平秋村・石引村・平岑村・小廣村・黄門村を踏査した。 二回目の調査:貴州省黎平県双江郷坑洞村の「カン鬼節」(幽霊を追い払う行事)、中潮鎮上黄村の「祭呉勉」行事について参与観察を行った。また岩洞鎮岩洞村の「月也」(村落間の交流行事)で展開した歌掛け行事(客を迎える「ラン路歌」、七つの集落の「鼓楼大歌」、客を送る「ラン路歌」)、及び守護神を祭る「祭薩」行事について参与観察を行った。さらに「祭薩」の伝統行事で有名な榕江県車江郷三宝村・章魯村を踏査した。 本研究は日本古代の「歌垣」の実態を明らかにすることを念頭に置きながら、中国トン族地域で実地調査を展開してきた。研究期間中において、自然と人文環境の踏査、行事への参与観察、経験者を対象にした聞き取りなどを通して、トン族歌掛け行事の「生態」と文化的背景を把握し、多くの第一次資料(動画・写真・音声)を蒐集することができた。毎回の実地調査が終了すればすぐに文字整理を進めたので、研究成果を確実なものにすることができた。さらに日中両国で研究活動を積極的に展開し、成果の内実を深めてきた。 2017年3月までに、三年間の研究成果を整理・編集し、「歌謡生態考察研究編」「文化背景聞き取り記録篇」「歌謡資料編」の部立てで、『調査研究報告書』をまとめ上げた。
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