研究課題/領域番号 |
26370420
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研究機関 | 天理大学 |
研究代表者 |
下村 作次郎 天理大学, 国際学部, 教授 (20148670)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 台湾原住民文学 / 台湾文学史 / 台湾原住民文学史 / 原住民作家 / 漢語文学 / 他者 / 16族 / 平埔族 |
研究実績の概要 |
本研究は『台湾原住民文学選』全9巻(草風館、2002年~2006年)や台湾原住民文学関係書の編集・翻訳出版等を通じて、過去30年の台湾原住民文学の発展を俯瞰し、台湾原住民文学史構築のための研究を展開してきた。 初年度の平成26年度は、過去の実績を踏まえ、研究代表者の下村は『台湾近現代文学史』(共著、研文出版、2014年5月)の出版からスタートした。該書では「台湾近現代文学年表」を作成し、台湾文学における台湾原住民文学の位置付けを行った。さらに該書では、連携研究者の魚住悦子氏が「台湾原住民族文学の誕生―ペンをとった台湾原住民族」を執筆した。また2014年12月には、シャマン・ラポガンの海洋文学1・2として、魚住悦子訳・解説『冷海深情』、下村作次郎訳・解説『空の目』(草風館)を刊行した。 平成27年度は、台湾原住民文学史構築の一環として、初年度の研究成果を「台湾文学史の構築から台湾原住民文学史の構築へ」としてまとめ、その成果を慈済大学東方言語学科「姉妹校學者遠朋講座」の一環で、2015年5月4日と5日に連続講義を行った。さらに同年11月7日には、国立台湾文学館で開催された「2015台湾文学外訳国際学術研討会曁台湾文学訳者論壇」において、「在日本的台湾原住民文学―日本読者読了没有?―」と題して講演を行った。日本における台湾原住民文学の受容について考察したものである。重要な点として、台湾原住民文学は体系的に日本に翻訳され、日本の作家が高い関心を寄せていることを指摘した。 台湾原住民文学は台湾文学と同様に他者が描いた原住民文学が多数存在する。日本の近代文学作家佐藤春夫が1920年の訪台経験をもとに描いた作品に「霧社」などの作品があるが、それらの作品についても研究を深め、研究成果を講演「大正文学、佐藤春夫与台湾:先行研究一瞥」(於国立台湾文学館、2016年3月18日)などで公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
【研究実績の概要】で述べたように、本研究は計画通り順調に進展している。 研究代表者の下村は平成27年度、台湾からの招聘を受けることが多く、その都度本研究と関連する講演や講義を行ってきた。具体的に述べると、招聘を受けた機関は、慈済大学(2015年5月1日~5日)、国立台湾文学館(2015年11月6日~10日)、国立成功大学・国立中山大学・国立台湾文学館(2016年3月10月~21日)である。その際本研究関連で行った講演や講義は【研究実績の概要】に述べた通りである。さらにこうした招聘の機会を利用して、海外研究協力者との連絡を密に取るように努め、台湾原住民文学研究者のプユマ族孫大川氏、ツォウ族浦忠成氏、原住民作家のタオ族シャマン・ラポガン氏、プユマ族パタイ氏、ルカイ族アオヴィニ・カドゥスガヌ氏、さらに霧社事件・平埔族研究者の鄧相揚氏、山海文化雑誌社の林宜妙氏と連絡を取り情報交換を行った。 また、本研究計画に基づく平成27年度のフィールド調査は、8月24日から9月3日まで連携研究者の魚住悦子氏と共同で実施した。 訪問地・調査地は、台東県蘭嶼郷、同卑南郷、屏東県牡丹郷、同恒春郷、南投県埔里鎮、同仁愛郷である。さらに、台北市の台湾原住民族図書資訊中心(国立台湾大学構内)、山海文化雑誌社、国立台湾博物館を訪問して文献調査及び情報収集を行った。さらに本研究の一環として特に重視しているシャマン・ラポガン氏とパタイ氏の作品舞台の調査のために、二人の協力のもとにそれぞれ蘭嶼島や台東県・屏東県を見て回り、大きな収穫を得た。 また2016年4月29日から5月2日まで、廈門大学人類学研究中心において「“台湾原住民族群関係的歴史、現状与未来”国際学術研討会」が開催されるが、下村はその国際シンポジウムへの招聘を受け、2月から3月にかけてこれまでの研究成果の整理を行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度はすでに次の二つの国際シンポジウムが予定されており、そこで本研究関連の研究報告や意見交換、情報収集を行う予定である。 4月29日~5月2日:「“台湾原住民族群関係的歴史、現状与未来”国際学術研討会」、於廈門大学人類学研究中心。下村は「窺見台湾原住民族文学史的建構」のテーマのもとに、本研究の構想について発表する。6月4日~5日:「台日『文学と歌謡』国際シンポジウム」、於国立台湾文学館。連携研究者の魚住悦子氏は「原住民作家パタイは「八瑤湾琉球人遭難事件」をどう描いたか」、海外研究協力者の鄧相揚氏は「佐藤春夫的水沙連印記与文学地景」を発表する。 さらに下村は8月に本務校の任務で学生の中国語海外実習を3週間実施するために台北に滞在する。その間、教務の空き時間を利用して、海外研究者と情報交換を行い、インフォーマントへのインタビューを実施する。さらに公共機関での文献資料蒐集や書店での新刊書の購入を行う。これとは別に、9月初旬に計画通り台湾でのフィールドワークを行い、本研究の充実を図る。 なお、下村は本研究の一環として、シャマン・ラポガン氏の大長編小説『大海浮夢』の翻訳を進めている。連携研究者の魚住悦子氏は論文執筆の他に、シャマン・ラポガン氏の『ンガルミレンの死』やパタイ氏の『暗礁』『浪涛』などの翻訳を進めているが、いずれも長編小説であり、計り知れない困難を伴うものである。 本年度は本研究の最終年度である。こうした翻訳や文献蒐集・整理に当たりながら、9月以降、本研究の最終的な収獲、すなわち台湾原住民文学史構築のための青写真作成に向けて、鋭意、本研究を進めていく予定である。
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