本研究は、1980年代初年に誕生し30年を経過した台湾原住民文学の発展を、原住民作家たちの創作実践を通じて考察し、台湾原住民文学史の構築を目的とするものである。研究は次のように経過し、大きな成果をあげることができた。 平成26年度は、研究代表者の下村が『台湾近現代文学史』(共著、研文出版、2014年5月)を出し、該書に「台湾近現代文学年表」を収録した。本年表は台湾文学史における台湾原住民文学の位置づけを行なったものである。該書には、連携研究者の魚住悦子氏が「台湾原住民族文学の誕生」を執筆した。本編は日本人研究者が台湾原住民文学の誕生前夜から誕生、そして今日までを通史としてまとめた最初の論考である。2014年12月には、シャマン・ラポガン著『冷海深情』(魚住訳)と『空の目』(下村訳)を上梓した。 平成27年度から28年度は、代表者は台湾原住民文学史を構想した講演や研究報告を次の通り行った。「台湾文学史の構築から台湾原住民文学史の構築へ」(慈済大学、2015年5月4日・5日)、「在日本的台湾原住民文学―日本読者読了没有?」(国立台湾文学館、同年11月7日)、「窺見台湾原住民族文学史的建構」(廈門大学人類学研究中心、2016年4月30日)、「なぜ文学なのか?―存在する台湾原住民文学」(大阪日台交流協会、2017年3月25日)等。 予定したフィールド調査は毎年実施した。特にシャマン・ラポガン(蘭嶼)とパタイ(台東)が描く作品舞台は毎年のように調査して実績をあげたが、その成果の一部は引き続き次のように公表が予定されている。シャマン・ラポガン著、下村訳『大海に生きる夢(大海浮夢)』(草風館、10月出版予定)、魚住氏の日本台湾学会発表「19 世紀末の瑯王+喬(恒春半島)を作家たちはどう書いたか―原住民作家パタイの『暗礁』『浪涛』を中心に」(2018年5月27日)。
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