研究課題/領域番号 |
26370423
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
青柳 悦子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (70195171)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / アルジェリア:チュニジア / 北アフリカ / フランス語圏文学 / ポストコロニアル / 世界文学 |
研究実績の概要 |
本年度は、北アフリカにおける現代文学状況をより広く把握する作業を進めるとともに、個別研究のさらなる深化を通じて北アフリカ文学研究の21世紀的意味を明らかにする作業をおこなった。 チュニジアについては1998年から2007年までに出版された文学作品について、アラビア語表現作品とフランス語表現作品の双方についての網羅的な調査をおこなった。フランス語表現文学についても作家や作品は国外にあまり知られていないが、チュニジアのアラビア語表現作品についての情報はアラブ=イスラーム世界においてもきわめて少なく、とりわけ日本ではまったくないと言ってよい状況である。基礎的な情報を整理し日本語に翻訳することによって、チュニジアの文学状況を概観する基盤を整えた。 アルジェリアについては、大きく2つの観点で研究を進めた。第1は、植民地時代の文学に関する今日的な問い直しの動向から、現代アルジェリア文学の課題を照らし出すことである。この観点から、ムルド・フェラウンMouloud Feraoun(1913-1962)およびアルベール・カミュAlbert Camus(1913-1960)の受容に関して現在起きている変化に着目した。第2は現代アルジェリア文学のなかでもその鋭い問題提起によって最も重要な文学者とみなされている作家ブアレーム・サンサルBoualem Sansal (1949- ) についての研究で、とりわけ『ドイツ人の村』(2008)を中心に、21世紀の現在においてはじめて可能になることとして、世界の現代史と不可分のものとしてのアルジェリア史の再検討と、現代世界における新たなアルジェリア人のあり方に焦点を当てて研究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、口頭発表3件(うち1件は国際シンポジウム、もう1件はアルジェリアでのフランス語による招待講演)をおこなった。またいずれも近刊予定であるが、前年度末に主催したアルジェリア文学をめぐる国際シンポジウムの講演2件の日本語訳、またアルベール・カミュの『異邦人』のバンド・デシネ版の翻訳と詳細な解説の執筆を成果としてあげることができる。さらに続行中の作業として、ブアレーム・サンサルの文学についての研究と『ドイツ人の村』の翻訳、チュニジアの現代文学作品のリスト化をおこなっている。 口頭発表では、「被植民者にとっての公教育と文学」で植民地時代および20世紀後半のポストコロニアル研究の時代に対立的にしか捉えられていなかった被植民者の文学と植民者の文学を総合して、今日的視座から新たに問いなおす試みをおこなった。「フランス人マンガ家ジャック・フェランデズのアルジェリア関連作品について」では、バンド・デシネという現代的なメディアを通じて、カミュとアルジェリアの関係の問い直しがおこなわれていることに注目した。ムルド・フェラウン暗殺56周年を記念するアルジェ大学(アルジェリア)での招待講演 " L’Influence des editeurs sur l’image de Mouloud Feraoun" では、この作家の真価が歪められて受容されてきた経緯を明らかにするだけでなく、アルジェリアの文学者・大学人そしてアルジェリアの若い知識人が今後、世界の文学研究において果たす役割についても議論した。 研究活動の蓄積とともに、国際的なネットワークも充実してきており、今日における北アフリカ研究の課題を現地の人々や、北アフリカと関係する西欧の人々とともに掘り下げる基盤作りが進行している。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は最終年度であるので、国際学会での発表をおこなうとともに、次の作業をおこなう。 ムルド・フェラウンの作品が今日の文学研究にとって持つ意味を明らかにする論文、ブアレーム・サンサルの現代文学についての研究、アルジェリアの現代文学状況全般についての総括の試み、チュニジアの21世紀文学リストの作成、フランスおよび世界における北アフリカ文学に対する姿勢の概観。
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