研究課題/領域番号 |
26370425
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
Julie BROCK 京都工芸繊維大学, 基盤科学系, 教授 (70293983)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 翻訳学 / 万葉集 / 恋の表現 / アンリ・メショニック / リズム論 / 風土学 / 詩の詩性 / 生の作用 |
研究実績の概要 |
詩には語および文法を解読して得られる言語学的な意味と、詩に詠われているものとの共感によって把握される人間学的な意味の二つがあり、その二重の意味合いについて理論的な研究を行った。研究発表は以下の4点である。①上代文学会における「『萬葉集』における恋の表現について―翻訳を試みて」(5月)、②全国大学国語国文学会における「和歌の表現の巧みさをどのように翻訳するか―『万葉集』の一首の和歌における同音異義語のはたらきを例に」(6月)、③万葉文化館第共同研究にて研究発表「『万葉集』の歌三首から「おほほしく」をどう解釈し、フランス語に翻訳するか」(11月)、④フランス翻訳学会第1回研究会における「詩の「詩性」をどのように翻訳するか―アンリ・メショニックの『リズム論』をめぐって」(平成28年3月)。 学術出版は以下の3点である。①「和歌における枕詞の働き―『万葉集』の三つの和歌について」『芸術のかたちと受容の質―「生の作用」のさまざまな芸術の出会い―』(マルク・マチュー=ミュンシュ編、オノレ・シャンピオン出版、10月)、②「秋風と露の涙―『万葉集』の一首に関する風土的な考察」(インターネット出版、11月)、③「春の日を愛でる言葉「菅の根」『万葉集』における同士「こひわたる」と助詞「を」の働きに関する一考察」(平成28年3月)。 なお、上記に加えて『万葉集』および古典文学の専門家3名へのインタビューを行った。 以上の研究を通して、『万葉集』における恋の表現の多様なニュアンスを吟味するとともに、それらの極めて日本的な表現がいかに普遍性を有しているかを示すことを試みた。一方では詩の意味を理解するために解釈学が不可欠であるが、他方、翻訳するためには、翻訳先の言語における修辞の中から、原文が与える作用を同じように与えるものを見つけることが必要であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画書においては予定されていなかった活動をいくつか下に挙げる。 ①2つの学術論文を発表した。さらに加えて、本務校の紀要へ論文「春の日を愛でる言葉「菅の根」―『万葉集』における動詞「こひわたる」と助詞「を」の働きに関する一考察」を投稿した。②フランス翻訳学会第1回研究会における発表。ここではアンリ・メショニックのリズム論に基づいて、詩におけるリズムについて考察した。その結果として理論的なアプローチを試みることになった。なお、この研究会の主催を務め、今後の共同研究プロジェクトの代表者となった。③この会においては古典文学および『万葉集』を専門とする3名(駒木敏、岩下武彦、西澤一光諸氏)へのインタビューを行ったばかりではなく、万葉文化館の井上さやかおよび小倉久美子両氏へのインタビューも録音することができた。 このような成果によって、平成28年度の活動計画についても一層、期待できることとなった。本年度夏、パリにてフランス翻訳学会における「日仏翻訳学夏期セミナー」を主催するが、その際、フランスで『万葉集』の研究を行っている専門家5名、また、翻訳そのものについて議論するため、15名を講師として招く。詳細は以下に記載されている通り:http://www.kit.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2016/04/events160829_jp.pdf。なお、平成29年度4月には、フランスにて同学会の第一回国際大会が行われるが、その中で「日仏方法学的対話」と題されるセッションを主催する。 以上の活動を通して、日仏の翻訳学的問題および日本古典文学の現代語・外国語への翻訳の問題に関して、様々な側面を議論してゆくことができる。その中で、和歌の日本的な特殊性と普遍性について、考察を深めることができるに違いない。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究推進方策として、主なものを以下に挙げる。 研究発表として、以下の四つを予定している。①関西のフランス研究者による学会(SCIENCESCOPE)における「詩を詩として翻訳する―万葉集の一首の和歌をめぐって」、②フランス翻訳学会(SoFT)が主催する日仏翻訳学夏期セミナーにおける「詩の詩性をいかに翻訳するか―メショニックの「リズム」を通して見た『万葉集』の和歌」(なお本セミナーにおいては、代表者も務める)、③萬葉学会における「和歌における枕詞の働き―『万葉集』の二つの和歌について」、④上代文学会における「着物の帯を結び、解く―『万葉集』より二首の和歌の分析と「時」についての考察」。 また、2017年2月に日本古典文学の専門家を招いて、フランス翻訳学会(SoFT)第二回研究会「日本古典文学の翻訳学(2)」を開催し、ここで報告者は加藤周一『日本文学史序説』『日本における時間と空間』および丸山眞男との共著『翻訳と日本の近代』をもとに、『万葉集』に見られる、恋人たちの世界観の特殊性および普遍性を考察する予定である。 加えて、万葉集あるいは日本古典文学の専門家である、駒木敏、西澤一光、ミシェル・ヴィエイヤール=バロン、寺田澄江、アントニオ・マニエーリ、マリア=キアラ・ミリオーレの諸氏にインタビューを行う予定である。 なお、上記で得られた成果を踏まえたうえで、2017年4月にフランス翻訳学会(SoFT)が開催する第一回翻訳国際シンポジウムにて「日仏翻訳における方法論的対話」のセッションを代表し、また研究発表を行う。ここでは、翻訳における理論と実践をいかに結びつけることができるかを、『万葉集』の恋の歌の翻訳を通して考察する。
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備考 |
2015年度の研究成果に関連して2016年夏期に日仏翻訳学夏期セミナーを開催する(プログラムは上記webページに記載)。
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