万葉詩人の表現の独自性がどのようなものであるかという問いに対し、翻訳の実践と理論を通して答を導いた。一方では、例えば、和歌に含まれる掛詞の二重の意味をどのように掴み、別の言語で伝えることができるかについて考察した。また、枕詞については、日本で評価を得ている注釈書をいくつか検討し、広い知識をもとに意味合いを導き出し、別の文化においてそれに対応する表現を見出した。他方では、例えば、翻訳学学者メショニックの理論を基に、彼の言う「主体」「リズム」などの概念をどのように『万葉集』の和歌に当てはめられるかを問い、万葉詩人の技法を通して、当時の人々の世界観、時間の感覚などの「文明的な」要素を明らかにした。
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