近代の日本およびロシアの〈少女文化〉の文脈において、「少女小説」というジェンダー化されたジャンルは、出版文化や女性教育の発展と絡み合いつつ、欧米の少女文学の翻訳・翻案という形で受容することによって形成されたとみられる。 本研究の目的は、「少女小説」が形成されるに際して、少女をめぐるさまざまな欲望が、日露双方の文化において歴史的・政治的運脈とどのように関わり合うのかという問題について、比較文学の研究方法を用いることにより、主に次の三つの課題に取り組むことにある。 それは、(1)欧米の「少女小説」受容経路の解明、(2)戦争を経験する中で「少女小説」という一ジャンルを成立させる枠組みの検証、(3)生産されたテクストに見られる物語の規範化の特徴についての検討、以上の三点である。 平成29年度当初の研究実施計画では、本研究の最終年度にあたるため、前年度に積み残した分析・考察の補充と、研究成果の総括及び公表を重点的に行う予定であった。 本年度実施した内容として、前年度までに収集した資料を整理・分析することによって、日本のロシア文学翻訳史において、大正期以降のいわゆる職業翻訳家によるロシア語からの直接訳が主流をなす中で、「少女小説」の領域では、他言語を媒介させた〈重訳〉への許容度が高かったことを明確にした。また、とりわけ日本における振興ジャンルとしての「少女小説」は、児童文芸雑誌『赤い鳥』等を介した欧米の児童向け小説の翻訳の場合と同様、ロシア文学専門家による翻訳と児童文学専門家による翻訳という二つのルートがあったことを確認した。以上の研究成果をまとめた論文を学術雑誌に投稿した。
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