本研究は、「少女小説」が形成されるに際して、少女をめぐるさまざまな欲望が、近代の日露双方の文化において歴史的・政治的文脈とどのように関わり合うのかという問題について、比較文学の視点から考察したものである。分析を通して、欧米の「少女小説」を受容する形でこのジャンルが生まれたこと、戦争を経験する中でよりジェンダー規範が強化され、コロニアリズムとパターナリズムが交錯する物語という一つの枠組みが構築された面があること、その物語が女子教育の進展や大量印刷技術の発展を背景に少女たちに波及していったことが明らかになった。こうした特徴は、近代の日本とロシアにおいて、部分的に共有されていると考えられる。
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