研究実績の概要 |
主にドキュメンタリー/記録映画を素材に災害表象の変遷を辿ることにより、映像表現がいかに発展してきたのかを探る。ドキュメンタリーに対する概念が問い直され、作り手の「主観」や被写体や作品に対する「倫理」の問題に対する意識について議論が高まる中で、新たな「災害」を「表象」するドキュメンタリー作品が今現在どのように生成され、過去の作品がどのように再評価されているのかを吟味することにより、映画表現「メディア」、ドキュメンタリー表現「ジャンル」の概念自体までをも再検討することができる。ドキュメンタリー表現の作り手による「主観」の問題、対象に対する表現者の「倫理」の問題、災害により顕在化する「都市・環境・テクノロジー」の問題にも目を向ける。 映画監督・堤幸彦は東日本大震災の被災地・気仙沼を訪れ、「ドキュメンタリー・ドラマ」の手法で一年毎に被災地に暮らす人々の様子を描くプロジェクト『Kesennuma, Voices. 東日本大震災復興特別企画~堤幸彦の記録(1~4)』(2012-15)を展開しており、過去の記憶・光景と現在・未来が重ねあわされる効果をもたらしている。 さらに、「ニューヨークで起こったハリケーン・サンディ(2012)」、「ニュー・オーリンズで起こったハリケーン・カトリーナ(2005)」を中心に歴史的な自然災害(たとえば1900年のハリケーン・ガスベストン、1927年のミシシッピの大洪水、1906年のサンフランシスコ大地震、1931年から1939年にかけてグレートプレーンズ広域で断続的に発生した砂嵐/ダスト・ボウル)や、1989年のエクソンバルディーズ号原油流出事故、1979年のスリーマイル島原子力発電所事故など、米国の災害文化史をも比較参照した、災害表象分析研究の成果を単著として準備中である。
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