研究課題/領域番号 |
26370438
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
橋本 修 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (30250997)
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研究分担者 |
大島 資生 首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (30213705)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 従属節 / 複文 / 連体修飾 / 副詞節 / 引用節 |
研究実績の概要 |
1 現代日本語従属節テンス現象に関しる記述モデルの検討を行った。具体的には、概観的な観察の中で例外とみられる現象の諸特徴を探索・検討し、例外例がほとんど「進行あるいは疑似進行のル形節」「「繰り返しのル形節」「近接過去的なル形節」のいずれかの特徴をもつことを明らかにした。また、単文(主節)における基本的テンスシステムとの対応を見ることにより、これらの例外をも処理できる記述モデルとして、相対テンス現象をすべてアスペクト化として扱おうとする「アスペクト節」よりも、「アスペクト化」を限定的なものとし、相対テンス現象をテンス現象とアスペクト現象の2種に峻別するモデルの方が、いわゆる過不足のない(予測性の高い、かつ強すぎない)モデルであることを明らかにした。具体的には、上記例外のうち、「進行ないし疑似進行のル形節」のみをアスペクト化の問題とし、「繰り返し型」「近接過去型」についてはテンスからの解放・不定形化・派生的テンスシステムの問題として扱うことにより、適切な記述モデルとなることが明らかになった。 2 文、文章における情報提示の順序について、主として日本語連体修飾節と、英語関係節を比較し、節のタイプによる順序の異同を検討した。 3 前年度までの発達研究についてデータ拡充を行い、「「1文あたりの形容詞数」よりも「1文あたりの動詞数」のほうが年齢進行およびリーダビリティ値の増加との相関が高い」ということの確からしさを強化した。ここから強く予測されるのは、形容詞の名詞修飾の多くが、節としての充分な資格をそなえていない、ということである。 4 抽詞句の指示・叙述特性について、述部名詞句の叙述性をテストするフレームとして、「Aは何ですか」というテストの適用限界を検討し、当該テストがモノ名詞句には適用できない(モノ名詞句については叙述名詞句においても成立するケースがある)ことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1 研究の進行に伴い、日本語従属節のテンス研究に関し、三原(1992)「視点の原理」を中心とした先行研究のモデルの、意味論的・語用論的理解が大幅に進んだ。三原(1992)の視点の原理は、統語的メカニズムを背景に持っており、意味論的なアウトプットをどのように評価すべきかが十分に明確でなかったが、本年度の研究によって、以下のような重要な点が明らかになった。(a)引用節においては、直接引用タイプも間接引用タイプも、視点の原理の適用外であること。(b)連体修飾節のうち、相対補充修飾節と、内容補充修飾節の少なくとも一部に、視点の原理の適用外になる現象が存在すること(c)視点の原理への批判として挙げられる現象のうち、「特定の環境では、ル形・タ形のいずれかに固定される」という現象は、その現象自体だけでは充分な反例にならないこと。(d)内の関係の連体修飾節においては、「内の関係、かつ動作主ガ格が出現している(あるいは潜在的に修験可能である)」にもかかわらず不定形であるとすべき節が存在すること。(e)主節時基準の存在、あるいは「基準時」という概念そのものを否定する先行研究のアイディアに対し、一部は不定形への誤解によるものであるという理由、一部は基準時概念の代替モデルが構築できないという理由から、記述・説明装置としての「基準時」が有効であることを示すことができた。これらの成果は、本研究が目的としていた、従属節の意味論的・語用論的解明の中で、非常に大きな、中心的な意義を持つものであり、順調な解明を果たしたと考える。 2 他、「英語関係節と日本語連体修飾節の出現位置の相違」「形容詞修飾の発達研究」「コト的な抽象名詞を含む文の叙述性」についても、当初の目的のなかで重要な意味を持つ論点であるが、概ね、目標にかなった成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は当初平成26年度~28年度の研究期間を予定していたが、28年度において古代日本語従属節に関する調査を行う中で、当該調査対象の述部形態が当初の予想を超えた形で複雑なバリエーションをもつことが明らかになったため、追加調査を行う必要が生じ、29年度にその部分を行うこととなった(期間延長については、平成29年2月15日申請、平成29年3月21日付で承認済み)。 29年度に具体的に行う研究内容については、具体的には『「日本語歴史コーパス」からの第一次データ抽出』『抽出されたデータの形態素解析』『解析され、タグ付けされた結果に対するバグの除去』『データ分析に関わる先行研究の収集・分析』『成果発表』となる。データの入手に関しては、上記「日本語歴史コーパス」からの抽出で不十分な場合には、小規模ながら独自のデータ入力も検討する。成果発表に関しては、オリジナリティの主張についての先行研究との範囲確定のため、先行研究に対する詳細な検討が改めて必要になり、現在調査中であるが、次年度も調査を続け、発表の際は的確にオリジナルな貢献を主張する予定である。 また、研究期間終了後の新たな研究費申請・研究テーマ拡大を見据え、発表・討議を通して関連学会・関連研究者との交流を深め、本研究から発展する研究の可能性を積極的に探りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は当初平成26年度~平成28年度の研究期間を予定していたが、適切な短期雇用者の人数が得られなかったことと、平成28年度に得られた研究上の知見から、研究期間を1年延長すべきとの判断にいたったため、平成29年2月15日付で補助事業期間延長を申請し、平成29年3月21日付で承認されたものである。 具体的には、古代語の不定指示表現における述部形態上の振る舞いについて、追加調査を行う必要が生じた。この追加調査に伴うデータ入力・追補作業のための短期雇用者雇用、作業のための物品購入、追加調査の成果を報告するための旅費等があらたに必要となったため、平成29年度も研究費使用が必要になった。
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次年度使用額の使用計画 |
主な作業は、具体的には、(a)「日本語歴史コーパス」からの第一次データ抽出、(b)「aによるデータの形態素解析」、(c)「bの結果に対するバグ除去」(d)「データ分析に関わる先行研究の収集・分析」(e)「成果発表」であるが、(a)~(c)については短期雇用者の雇用・関連物品の購入、(d)については書籍等の購入、(e)についてはファイル加工ソフトの購入と旅費が必要になると見込まれる。 上記の内、特に(c)に作業は手作業になるため、費用が多めになると想定される。(e)については経費金額の問題があるが、可能であれば本年度に引き続き、海外での発表を行いたい。
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