日本語従属節に関して、現代語・古典語のコーパスやインフォーマントの内省判断等を用いて、主として以下の点を明らかにした。 第一点として、現代日本語従属節のテンスについて、基準時が従来よりバリエーションを持つことを明らかにした。具体的には発話時・主節時以外の時点が、従属節テンスの基準時を担うことを明らかにした。このバリエーションの存在については、以前からある程度疑われていたものの、いわゆる視点の原理が予測できない(ただし直接の反例ではない)現象がある等の事実から間接的に言及されているのみであったが、本研究において明確に発話時基準でも主節時基準でもない現代日本語の例文を組織的に見いだしたことによって、強い証拠による明確な主張を可能にした。第二点として、先行研究で不定形節とされていたル形節・タ形節が、実際に主節への従属度が高く節サイズも小さい典型的な不定形節と、独立性が高く節サイズもテンスを担う程度には大きい定形節とに分かれることを明らかにした。また第三点として、現代日本語の時に関わる従属節について、その構造とテンスの性質について、従来の名詞修飾節における内の関係/外の関係という類別に収まらないタイプであることを明らかにした。 第四点として古典日本語名詞修飾節について、主節では述部形態においてほぼ義務的にrealis/irealisが区別されるのに対し、一部のirealisを担う名詞修飾節においては、irealisであることを示すマーカーの出現が義務的でないことを明らかにした。 第五点として、国語教育との学際的な成果として、内容節としての修飾節をとる抽象名詞が、説明的文章の中でどのように振る舞うのかについて、コーパスにおける頻度分布・母語話者による評価等を調査し、名詞語彙間の傾向差を明らかにした。
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