研究課題/領域番号 |
26370440
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大堀 壽夫 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20176994)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 認知言語学 / 機能言語学 / 言語類型論 / 複文 / 構文スキーマ / 文法化 / 意味論 |
研究実績の概要 |
認知・機能言語学の観点から、主に複文構造について、2つの観点から考察を進めた。第一に、その通時相について、これまで提案された文法化の経路に加えて、いったん複文形式が成立した後の変化の諸相について資料収集を行い、考察した。具体的には、これまでにも成果を発表してきた中断節(suspended clauses)・脱従属化(insubordination)という現象が、複文形式のさらなる変化の一面として見られること、および補文をとるべき構造が補文なしに自立的にあらわれる現象があることを指摘した。文法形式の成立についての研究はこれまでも十分な蓄積があるが、文法化の行く末、とりわけ語用論的要因の支配する部分が増大することによる、一種の談話標識化のプロセスの研究は、今後さらに探究を要する。これらは招待講演等において中間的な成果を発表した。また、東北大学のH.ナロックをPIとする文法化研究プロジェクトとも連携して意見交換を進めた。今後はこれらの成果をまとまった論文の形にしていく予定である。第二に、複文構造の意味と談話機能についてより深く理解すべく、認知・機能言語学においてこれまで提案されてきた理論的装置の再検討を行った。特に、類像性(iconicity)、意味地図(semantic map)、構文(construction)について、その定義と有効な適用範囲を探った。特に、構文概念は本研究においても重要な概念であるが、特に2010年代に入ってからの、構文的意味についての新たな考察や、コロストラクション(collostruction)概念の拡散を受けて、研究会等を通じて再検討を試みた。また、第二の課題との関連で、認知意味論全般の枠組みの整理に向けた研究も同時進行で行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記項目で報告したいずれの課題についても、論文を執筆し、公刊を待つ状態である。いくつかのものは編集者の事情で3月までに公刊されなかったため、今回の報告には含まれていない。しかし、研究の進捗そのものはおおむね順調である。現在は海外のハンドブックにおける先端研究のサーベイ論文、および本プロジェクトの集大成的論文である、複文構造の類型論についての研究をまとめあげるべく努力をしている。また、本研究の理論的バックボーンの一つであるRole and Reference Grammarの国際会議を2017年度に本務校にて開催予定であり、これを機に本研究の関心を共有する者が多くなることが期待される。この他、研究成果の一部はデータベースとして公開予定であり、すでにデータ本体は整備を終えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進については、認知・機能的言語学研究の理論的基盤の検討(特に意味論)と、これと並行して上記項目で述べたように、海外のハンドブックやモノグラフシリーズを中心として、複文構造の類型論と通時的側面について研究を発信していきたい。また、より未来志向の研究としては、文法化の道筋をより客観的に比較するための尺度(適切なサンプリング、歴史的変化のウィンドウの設定、など)と、それに基づいた文法化の地域的特徴の解明に向けて、方法論を探っていきたい。あわせて、国内ではRole and Reference Grammarの国際会議、および各種研究会活動(2016年度に立ち上げた認知言語科学研究会を含めて)を積極的に行い、研究成果の一部のデータベースとしての公開とともに、成果の発信につとめたい。
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