2017年度においては、主に二つの研究に注力した。第一に、これまでの研究成果をより一般理論的な観点から検討し、その意義について考察した。具体的には、複文構文の考察を歴史的変化にも適用し、複文の文法化プロセスについて機能言語学の枠組みに基づいたモデル化を試みた。また、言語進化との関連で言われる再帰性の本質について、複文構文の成立と衰退という観点から考察を行った。8月にはRole and Reference Grammarの国際会議を東京大学駒場キャンパスにて開催した。基調講演者としてアンドレイ・マルチュコフ教授(独マインツ大学)と下條光明教授(米ニューヨーク大学バッファロー校)を招聘し、世界各国から多数の参加者を得て生産的な討論を行った。特に、この理論は複文構文について多くの成果をあげており、この分野について先端的な研究を行う研究者たちと意見交換をすることができた。第二に、今後のさらなる展開を視野に、認知・機能言語学の基本的課題について考察を行った。この領域は言語研究の中で一つのパラダイムを形成していると思われるが、その経験的基盤としての位置づけについては考察すべき点が残されている。この点について、特にメンタル・コーパスの発想を取り入れつつ、認知言語学が対象とする文法知識とはいかなるものかについて考察を行った。語彙知識と文法知識の連続性はしばしば主張されるところであるが、この問題をより広い文脈の中に位置づけて考察した。
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