研究課題/領域番号 |
26370442
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
伊藤 智ゆき 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (20361735)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 韓国朝鮮語 / アクセント / 歴史言語学 / 中期朝鮮語 / 類推変化 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、慶尚道諸方言の固有語・漢字語名詞、人名、用言のアクセントについて、資料収集及び分析を進めた。具体的な研究内容は以下の通りである。 (1) 慶尚北道大邱方言固有語名詞アクセント研究:前年度に引き続き、大邱方言固有語名詞(1~3音節語)アクセントの詳細な分析を進め、中期朝鮮語からの歴史的発展や、アクセントと分節音・音節量との相関性における、慶尚南道方言との違いについて明らかにした。 (2) 慶尚北道方言漢字語アクセント研究:1・2音節漢字語のアクセントについて、慶尚北道方言母語話者を対象に調査を行い、中期朝鮮語アクセントとの対応及び分節音との相関性について明らかにした。それにより、少なくとも一部の話者においては、中期朝鮮語上声に対応する長母音が、閉音節及び、激音・濃音頭子音に先行する音節において短母音化する傾向があることを見いだした。 (3) 人名(原則として漢字語)アクセント研究:慶尚道方言(大邱・釜山)の複数の話者を対象に、a) 約290種の名字単独のアクセント、b) 各名字に、4種のアクセントパターンを持つ2音節語の名前を組み合わせた場合のアクセントパターン、の調査を行った。その結果、慶尚南道方言では、名字単独のアクセントがH(L)クラスに大きく偏っている(最も大きい異なり頻度のアクセントクラスに類推的に変化したと見られる)のに対し、慶尚北道方言では該当漢字音の中期朝鮮語におけるアクセントがある程度保存されていること、また、人名アクセントは通常の漢字語アクセントと異なり、左方アクセント移動が適用されない場合があることなどを明らかにした。 (4) 慶尚南道方言における動詞/形容詞アクセント調査:慶尚南道方言の1・2音節動詞/形容詞語幹について、5活用形のアクセントパターンについて調査を行い、中期朝鮮語アクセントとの対応関係、分節音との相関性について明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に引き続き、慶尚道方言(北道・南道)のアクセント調査は順調に進んでおり、複数の話者から、固有語名詞(単純語・複合語)、漢字語名詞、人名、動詞/形容詞のデータを収集している。また、様々な発話の録音も行い、音響音声学的分析を進めている。これら収集データの分析結果に基づき、現在、研究成果の一部を論文にまとめているところである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、慶尚道方言のアクセント資料収集を継続し、より多くのデータの蓄積を目指す一方、これまでに行ってきた調査・研究内容について、更に詳細な分析を進める予定である。漢字語名詞については、1・2音節語のアクセント型分布について統計学的検証を行い、計算言語学的手法によるモデル化を行う。また、3音節語以上の漢字語のアクセントパターンに関する調査・分析を進め、特に4音節以上の漢字語において、アクセント上の境界と、他の音韻論的現象(平音頭子音の有声音化等)に関する境界がどの程度一致するのか、検討を行う。人名のアクセントについては、名字+職名(「教授」、「先生」等)のアクセントパターンとの違い、慶尚北道・南道間の違い、個人差等について、詳細に検討を進める。更に、慶尚南道方言に比べ、先行研究の比較的少ない慶尚北道借用語アクセントについて資料収集を行い、音節量・分節音・原語(主として英語)のストレスアクセントとの相関性等に関し、分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は、招聘されていた国際学会(於韓国)が、MERS流行の影響でキャンセルになったこと、また予定していた調査が予想よりも早く完了したことなどにより、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、平成27年度に引き続き、インフォーマント調査を継続して行う一方、収集データに関する詳細な分析、統計学的検証、計算言語学的手法によるモデル化を行う予定である。助成金(次年度使用額を含む)は、調査にかかる謝金、分析に使用するハードウェア・ソフトウェア購入費、研究成果公開に必要な諸費用として使用する計画である。
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