本年度は、韓国朝鮮語諸方言(慶尚道方言、延辺朝鮮語等)において、語彙種(固有語、漢字語、借用語)の違いがピッチアクセントパターンの分布に影響するという前提のもと、語の音韻論的諸特徴(頭子音、母音、末子音、及びそれらの連続)のみで、語彙種の分類が可能であるか、「韓国語慶尚道方言のアクセント研究(国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)H28~H30)」と連繋しつつ、検討を進めた。 Maxent Grammar モデル(Hayes & Wilson 2008)を用い、同一パラメータ設定で、複数回、固有語・漢字語・借用語データの学習を行わせ、全ての学習に共通して現れた制約群・最低二回の学習に共通して現れた制約群・各学習に見られた制約群の合成等、様々なパターンについて、モデル精度の比較を行った。また、データ全体において漢字語の比率が高いことから、全ての語がデフォルトの漢字語であると想定するベースモデル、各語彙種の比率に基づきランダムに語彙種を想定する異なり頻度モデル、ngramを用いたモデル等との比較も行った。これらにより、韓国朝鮮語の語彙種は、音韻論的特徴(素性を用いた制約群)により、最も正確に分類されることを見出した。 また、同分析結果に基づき、韓国朝鮮語母語話者を対象に、無意味語を用いた初歩的な実験を行った。それにより、モデルの推定は概ね妥当であるが、特に漢字語に関し、実在語以外の音節構造を許容しない傾向があることを確認した。 これにより、語彙種の違いを一要因として設定した、韓国朝鮮語諸方言におけるアクセント変化に関するモデル構築のための基礎を築いた。
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