研究課題/領域番号 |
26370471
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
清水 誠 北海道大学, 文学研究科, 教授 (40162713)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アイスランド語 / フリジア語 / オランダ語 / ドイツ語 / 北欧語 / ゲルマン語 |
研究実績の概要 |
研究4年目にあたる平成29年度には、論文2点を発表し、図書1点を刊行した。さらに別の図書1点が印刷中である。 論文“Besprek: Hitoshi Kodama, Japansk-Frysk wurdboek (jap. Nihongo-furijiago jiten)”はフリジア語学文学の代表的な国際学術雑誌 Us Wurk. Tydskrift foar frisistyk に掲載された。これは同雑誌編集委員会から依頼を受けた招待論文で、日本人として初めて西フリジア語で執筆した論考である。兒玉仁士編『日本語フリジア語辞典』(大学書林 2015) の内容を論じており、日本語と西フリジア語の特徴について対照言語学的観点から考察を施した。 論文「Fryske Akademy とフリジア語の擁護」は、2016年9月にオランダ・レーヴァルデン市のフリスケ・アカデミー (Fryske Akademy) の校舎落成の式典と講演会にオランダ学士院 (KNAW) の会員として招待され、海外旅費を利用して参加した際の成果を報告した研究発表 (「西フリジア語研究の動向と Fryske Akademy の役割」北海道ドイツ文学会 2016年12月) の内容を論文にしたものである。フリジア語研究と公的擁護の現状について、社会言語学的視点からヨーロッパの多言語使用と言語擁護政策との関連で批判的に論じた。 著書:谷口幸男『エッダとサガ』(新潮社 2017) は、約40年前に刊行された名著の復刊に際して出版社の依頼で著者に代わって内容を改訂し、26頁の解説を施したもので、昨年度に執筆した原稿を修正し、校正作業を経て出版された。 別の著書:『オランダ語の基本』(三修社) は本研究の成果をオランダ語に応用したもので、一部を除いて印刷段階に入っており、補筆と修正を経て今年度中に刊行される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに研究開始時点から4年が経過したが、その間、合計で論文7点、研究発表2件、図書 (共著を含む) 6点を発表し、さらに主要部分が印刷中の単著1点を数えている。平成26年度には、日本独文学会編集委員会副委員長として、同学会の機関誌『ドイツ文学』150号の特集「標準ドイツ語をめぐる諸方言と諸言語」の編集責任者を務め、ドイツ本国から特別寄稿を求めるなどして企画・実行において主導的役割を果たした。 また、平成28年度には海外旅費を活用してオランダのフリスケ・アカデミー (Fryske Akademy) を訪問し、オランダ第2の公用語である西フリジア語の研究擁護の実情を視察して、その成果を社会言語学的観点から論文にまとめた。その際、同アカデミーの研究員からフリジア語の国際学術雑誌 Us Wurk. Tydskrift foar frisistyk に投稿を依頼され、同誌に論考を掲載した。 こうした成果から、本研究は引き続きおおむね順調に進展していると評価できる。ただし、当初のテーマから発展して、「ゲルマン諸語の言語擁護」という新たなテーマにやや比重を置いた業績が多いことは、予想外の進展だった。ゲルマン語は現代社会の国際語となった英語から、絶滅が懸念される危機言語としてユネスコから指定を受けているフリジア語群など、言語の地位と生態が最も多岐にわたる言語グループである。したがって、抽象的な構造的分析では捉えがたい側面があることは否定できず、こうした展開はある程度、必然的結果とも言える。 しかし、本研究の主眼はあくまでゲルマン諸語の体系的な構造記述にあることは言うまでもなく、研究最終年度を迎えて、これに関連した複数の論考を公刊し、研究発表を行う必要があると考えている。今年度は、これまでの研究の蓄積を具体化し、ゲルマン語全体に及ぶ形態統語論的分析に関するまとまった業績として収斂させたい。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年の5年目にあたる今年年度には、まず、現代ゲルマン諸語の名詞句の構造について、形容詞の語形変化の発達と類型に関する論考を近年の文法化 (grammaticalization) の研究動向との関連から、古語との比較による歴史言語学的観点を交えてまとめ、論文として公刊したい。A5版の誌面で100頁余りになると予想されるので、2回に分けて公表する予定である。また、このテーマについて全国規模の学会で研究発表を行いたい。具体的には、9月末に名古屋大学で開催される日本独文学会秋季研究発表会を考えている。形容詞以外のテーマについても、現代ゲルマン諸語の形態統語論的分析に関する論考を公刊したい。すでに名詞抱合、品詞転換、文法性 (gender)、枠構造などで研究の蓄積があるので、これらを発展させるつもりである。今年度中に3点の論文を完成することを目指したい。 著書については、単著『オランダ語の基本』(三修社) の大部分が完成しているので、校正作業を交えて、今年度中に刊行したい。本書は本研究の成果をオランダ語に適用したもので、オランダ語の普及という社会貢献の意味もある。 同書には音声資料が必要なので、母語話者の協力が求められる。そのために、夏にベルギーのレーヴェン大学で開催される国際オランダ語学文学会議 (IVN) に海外旅費を利用して出席し、専門家の協力を仰ぎたい。同会議は3年に一度、オランダまたはベルギー・フランドル地方の大学で開かれるもので、アジアの研究者にも強く参加を呼びかけている。本研究との関連の深い発表も数多くプログラムに組まれているので、最新の研究動向を探り、海外の研究者との交流の好機ともしたい。 その上で、本研究の成果を体系化し、単著『ゲルマン語研究』として勤務先の北海道大学文学研究科から出版助成を得て北海道大学出版会から刊行するために、全力を傾注するつもりである。
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