研究実績の概要 |
5年目の最終年度にあたる平成30年度は、4年目までに収集したデータ28名の整理のほかに、連携研究者であるファン氏(神田外語大学)が収集したオーストラリアおよび韓国済州特別自治道でのデータについても文字化資料を作成した。従ってインタビューに参加していただいた調査協力者数は40名程度になる。 学会発表では、「移動する人々の言語レパートリーの変容と言語問題―オーストラリア在住日本人の事例―」(韓国言語研究学会春研究大会 済州大学校 2018.6.30)、「移動する人々の習慣化された言語管理の語りはどのような多言語社会の言語問題を語っているか」(多言語社会と言語問題シンポジウム2018 言語管理研究会 東海大学高輪校舎 2018.12.22)の2本の発表を行った。前者はオーストラリア在住日本人3名の言語レパートリーの変化に焦点を当て、特にオーストラリア英語という、ローカルな言語規範に対する評価がどのような接触経験によって変化することになったのかについて仮説を提示した。後者は、収集した日本調査のデータを概観しつつ、長期滞在者の多くが移民コミュニティに参加していること、英語を含む3言語使用者か、英語を含まない2言語使用者かによって、言語問題と自己の社会的位置づけの在り方が異なること、移民コミュニティに参加しない2言語使用者には外来性を潜在化させる管理が見られることを指摘した。 また、投稿依頼を受けて「移動する人々の語りからみる言語問題―ボトムアップ・アプローチによる言語政策のためにー」(社会言語科学22, 1 社会言語科学会 印刷中)を執筆し、日本調査の典型的な3名の事例から、多様な日本語レパートリーの形成、日本語非母語話者として位置づけ、社会参加のスタイルとアイデンティティの葛藤に対する対処の仕方との関連といった言語問題を掬い上げる言語政策の必要性を論じた。
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