研究課題/領域番号 |
26370475
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 正人 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (90337410)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | クルフ語 / コルワ語 / インド・アーリア語派 / ドラヴィダ語族 / オーストロアジア語族 / ムンダ語派 |
研究実績の概要 |
今年度は、デカン高原の山地で話されるコルワ語につき、録音を収集し、書き起こしを行った。調査の際に、コルワ語を話すとされてきた村が、すでにコルワ語をやめてヒンディー語に移行しており、消滅に瀕した状態にあるなどの予想外の困難があったが、民話テキスト1点の語注つき訳を「東京大学言語学論集」に公刊した。コルワ語は文法が未記述であり、たとえば動詞の過去形として存在するいくつもの形式がどのように使い分けられるのか、3つある否定形式がどう分布しているかなど、依然として解明されていないが、継続して調査を続ける予定である。 また比較対象となるインド・アーリア系言語については、サンスクリット語において複雑な発展をとげた複合語形成に関する口頭発表を、2015年6月に行われた世界サンスクリット会議で行った。それにおいて、従来は外心、内心、限定、並列という4種に分類されてきたサンスクリット複合語が、実際にはその中間的な事例を多数もつことを例示し、複合語成立における意味論的考察の必要性を指摘した。 ドラヴィダ系の言語でチョーターナーグプル高原で話されるクルフ語については、収集した録音をもとに文法記述と辞書作成の作業を進めた。クルフ語の語彙に関しては、従来考えられてきたブラーフイー語、中央ドラヴィダ語派言語との関連が強くないことが明らかになった。また文法に関しては、隣接する平野部で話されるインド・アーリア系のサドリー語の強い干渉を示しつつも、細かな違いがあることが明らかになった。この違いがドラヴィダ祖語に由来するものか、あるいは閉鎖的言語環境における文法の複雑化に相当するかについては、さらに検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画のうち、パキスタン・バローチスタン州のブラーフイー語の調査に関しては、渡航延期勧告が出ており、現地情勢が向上しないことから、断念せざるを得なかった。 また、インド・チャッティースガル州のコルワ語に関しては、急速に話者が減少しており、消滅の危機に瀕しているため、訪問した地点で話者がすでにいなくなっているという予想外の状況があった。そのためコルワ語に関しても進捗に遅れが生じている。 その一方、クルフ語に関しては録音データの書き起こしがすべて完了し、文法記述もほぼ終えることができた。辞書についても基本的データの入力を終え、計画以上の進捗をみることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、まず完成が近いクルフ語の文法記述、書き起こしテキスト、辞書の刊行を第一の目標とし、それにもとづいて文法の複雑化の事例の抽出を行う。 また、コルワ語については、急速な衰退が懸念されるため、現地調査によってデータの収集と書き起こしを進め、文法記述と語彙集作成に可能な限りすみやかに取り掛かれる基盤づくりを行う予定である。
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