研究実績の概要 |
本研究では,シベリア北東部に分布するコリャーク語(チュクチ・カムチャツカ語族)の文法記述に向けて,従来のコリャーク語文法(Zhukova 1972等)には欠如していた統語論の記述を充実させるべく,特に動詞の統語現象に重点を置き,現地調査に基づく研究を進めてきた。 その結果,この4年間で,①副詞節,名詞修飾節をはじめとする節構造,②形態素が統語論的(あるいは統辞語論的)にふるまう複統合性,③属性叙述,④コピュラ文のスイッチング現象などの統語に関する考察を深めることができた。平成29年度には,②の成果として,The Oxford Handbook of Polysynthesis(Oxford Univ. Press) へのコリャーク語の複統合性に関する寄稿,③の成果として,Handbook of Japanese Contrastive Linguistics (Mouton de Gruyter)へのコリャーク語と日本語の属性叙述の対照に関する寄稿を行うなど,国際的著作の出版に加わった。また,④に関しては,コリャーク語が,コピュラ文をはじめ,述語文全体にわたる名詞的コード化と動詞的コード化のスイッチングを示す,類型論的にも珍しい言語である可能性を指摘することができた。これらに加え,平成27, 28, 29年度には,コリャーク語の語り・民話のテキスト(音韻表記,形態素分析,英訳・和訳)を刊行した。 以上,4年間の研究期間で,動詞統語論の主要なテーマの記述が大幅に進展し,統語論に関しては凡その部分をカバーできたと考える。一方で,すでに書き溜めている音韻論,形態論の見直しの中で,母音調和規則の記述などに再確認を要する箇所が出てきたが,29年度にコンサルタントが亡くなるなど,不測の事態に直面し,文法の仕上げにさらに若干の時間を要することが判明したため,刊行は30年度以降となる。
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