本研究は朝鮮半島の南部沿岸地域と九州北部沿岸地域において、朝鮮語と日本語の方言アクセントの地理的分布と方言間の変化とその特徴、そしてそれがどのように形成されたのか、通時的・共時的観点から検討を加え、両言語の歴史的関係を明らかにすることが目的である。しかしながら、それだけでは両言語全体の関係が解明にならない点が出てくると考えられたので、アクセントの変遷と同時に、朝鮮半島における両言語語彙の使用分布とその時代的変遷も検討した。 朝鮮半島全体の朝鮮語方言のアクセント間の変遷と特徴に関して、最近の信憑性の非常に高い先行研究の成果を中心に参照しながら、朝鮮南部沿岸地域の方言アクセント調査結果も駆使し、朝鮮語全体の方言アクセントの史的変化を判断・確定した。 現代のソウル周辺の京畿道方言、黄海道方言、平安道方言、忠清方言など北部方言は無アクセントであり、歴史的には扶余方言の代表である、高句麗語の無アクセントからの継承が大部分であり、その北部方言群を取り囲むように、歴史的には朝鮮祖語、古代朝鮮語、その後の中期朝鮮語(新羅語と百済語)の有アクセントへの変化、そしてそこからさらにそれぞれ現代の全羅道方言、慶尚道方言、咸鏡道方言へと変容したことを実証した。 日本語のアクセントに関しては、古代日本語、そして日本祖語まで遡ってもピッチアクセントを持っていたことが理論的に明確に示せることが分かるのに対して、上記のように朝鮮語に関しては古代朝鮮語、朝鮮祖語にはアクセントが存在していなかった、あるいは無アクセントであったということから、日本語と朝鮮語のアクセントには歴史的関係はなかった。しかしながら、朝鮮半島には前日本語と考えられる言語が存在していたことに言及し、それが半島全体でほとんどが基層となっており、語彙レベルでは借用が行われていたことも示した。
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