研究課題/領域番号 |
26370492
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
林 範彦 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (40453146)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 東南アジア諸語 / チベット・ビルマ諸語 / 言語変化 / 言語接触 / 中国 / 少数民族言語 / 歴史言語学 / フィールド言語学 |
研究実績の概要 |
平成27年度は現地調査・論文執筆・口頭発表の3点の研究活動を行った。 (1) 現地調査についてはタイ・ラオス・中国の3カ国で行った。タイでは前年度に引き続き、東北部に位置するナコンパノム県のセーク語の基礎語彙とそれに付随する例文データを採集した。ラオスではラオス国立大学の協力の下、中国国境と接するルアンナムター県のムアンシン郡にて、ロロ・ポ語とアカ・ブリ語の語彙調査を行った。中国では、雲南民族博物館の協力の下、ラオス国境に接する雲南省シプソンパンナー州のモンラー県のアク語の語彙調査と、同じく同州の景洪市のチノ語悠楽方言の補充データの採集を行った。いずれの言語調査でも基礎となるデータの録音作業を行い、特に注意すべき語彙のいくつかについては合わせて録画作業も行った。 (2) 論文については言語変容に関する論文を1編、共時的な記述に関するものを2編出版した。言語変容についてはチノ語2方言の摩擦音の由来について論じたものである。摩擦音の由来は従来チベット・ビルマ系の歴史言語学でもほとんど論じられたことはない。また借用語まで射程に入れた研究はほぼない。次に共時的な記述については、ラオスのロロ・ポの音韻に関する素描的な研究とチノ語悠楽方言の名詞句の構造的記述を行ったものである。ロロ・ポ語は先行研究の極めて少ない言語で、本研究はKato (2008)を引き継ぎ発展させたものと位置づけられる。また後者のチノ語悠楽方言の名詞句に関するものは、代表者の2009年に出版した記述文法の枠組みを発展的に拡張したものである。 (3) 口頭発表は3回行った。ビルマと中国のアク語の調査データに基づいた比較や、アカ系諸言語の総合的な比較、ロロ・ビルマ諸語の概括的な比較を試みた発表である。いずれも本科研で得たデータを用いた試論である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
言語調査は本年度も3度行えた。タイのセーク語にかんしては基礎語彙のほか、慣用的な連語の情報などとともに、植物相・動物相の一部についてもデータが集まってきている。またラオスではロロ・ポ語とアカ・ブリ語の追加調査ができ、両言語とも基礎語彙とともに昆虫類・動物・植物名のデータが多く収集できた。中国ではアク語の補充調査を行い、生活に関する基礎語彙を多く採集できた。これにもとづき、セーク語においては多言語環境における接触の影響や歴史的変遷の問題を、ロロ・ポ語とアカ・ブリ語についてはラオス領内の国境周辺地域における言語接触や民族移動の問題を、アク語については系統的に近いアカ語やチノ語との歴史的親近性について、分析できる段階に入っている。また一連の問題の初歩的な分析についてはすでに専門的な研究会での口頭発表も行い、有識者からの意見ももらっている。またチノ語2方言の歴史音韻論に関する論文も現在投稿中である。順調な進展と言えよう。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は最終年度となる。前年度までに得た現地調査のデータの整理・分析を一層進めたい。特に中国ではチノ語悠楽方言・補遠方言やアク語の追加調査を、ラオスにおいてはアカ・ブリ語やアカ・チチョ語に加え、シダ語・プノイ語の追加調査を、タイではセーク語の補充調査を行いたい。またこれまでに得た知見を踏まえて、最終年度では研究成果の発表をさらに進めていきたい。具体的にはチベット・ビルマ系については中国の雲南省のアク語・チノ語とラオスのシダ語・アカ語・ロロポ語の記述言語学的・歴史言語学的分析を公開したい。またタイ系であるが、タイのセーク語に関する共時的分析の論文も出版したいと考えている。 同様に、最終年度でも中国雲南省・ラオス北部・タイ東北部で補充の現地調査を実施したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初ラオスでの調査は実施状況よりも長い期間を予定していた。しかし、ラオス側の受入機関との調整や本務校での業務等との調整で若干短い期間で行なうこととなった。それによりいくぶん次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は最終年度となり、前年度よりも配分額が少ない。また次年度使用額としては5万5千円程度である。前年度までの使用実績を十分に考慮に入れ、特に調査旅費あるいは論文の英文校正費として執行したいと考えている。
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