最終年度(平成28年度)の研究活動としては大きく現地調査・論文執筆・学会発表の3点を中心に行った。 まず、現地調査についてであるが、本研究課題としては3回行った。9月上旬と2月にタイ東北部ナコンパノム県を再訪し、セーク語の補充調査を継続した。これによりセーク語の基礎語彙と文法スケッチを整理できる程度まで資料が集まった。よって今後はこの資料をもとに現在のセーク語の状況をまとめる冊子の作成を行う予定である。3月にラオス・ルアンナムター県を再訪し、アカブリ語・アカチチョ語・ロロポ語の補充調査を進めた。アカブリ語は基礎文例調査を開始し、ロロポ語は昆虫名や動植物名などの生態環境に関わる語彙収集を開始した。アカチチョ語は生活語彙の補充を進めた。今後はこれらの言語のデータ収集をさらに進め、各言語の比較語彙集を作成する予定である。 論文執筆としてはアカブリ語の音韻論に関する基礎的な記述を行った。同論文は神戸市外国語大学学術情報センター内ウェブサイトのレポジトリで公開される予定である。またNathan Badenoch氏と共著でラオスのシダ語の音素体系に関する分析を発表した。 学会発表としては主たるものとして2点あげておく。これまでの3年間に渡る現地調査の結果については京都大学言語学懇話会第101回例会で発表した。現状では十分に進んでいない東南アジア大陸部の諸言語の言語変化の発展段階に関する評価モデルについて初歩的な分析を加えた。また第49回国際シナ・チベット言語学会議(中国広州)に参加し、ラオスで調査したロロポ語の研究成果の一端として、中国で話される変種との比較研究を試みた。今後は同会議で出会えた中国側の変種の研究者Cathryn Yang氏からいただいた最新の調査データをふまえて、ラオスのロロポ語の言語変化の実態と、そこから推定される接触の様相に対して分析を深めたい。
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