文法、音韻、意味障害を有する脳損傷例、および若年健常者を対象に、ことばの産生・理解における文法、音韻、意味情報の役割を検討した。特に、文の骨組みを指定する動詞、文中で主語や目的語として文意を担う名詞に注目した。 ① 日本語では失語症による動詞活用障害の研究は少ない。日本語動詞にはⅠ、Ⅱ、Ⅲ類の活用型がある。Ⅰ、Ⅱ類は語幹末3音素で活用型が決まる。/iru/か/eru/で終わる語(着る、切る)は活用が一貫しない。そこで若年健常者を対象に活用実験(切る→切った)を行った。動詞を平仮名表記すると(はたらく)、見慣れないので難度が増し、活用型が一貫しない語の活用潜時が長く、誤答率も高いことが示され、失語症対象研究の基礎データが得られた。 ② 文法障害のある失語症者1例に自他対応動詞(閉まる/閉める)を含む文完成課題を実施し、非対格自動詞文「窓が閉まる」は、他動詞文「窓を閉める」や、対応のない自/他動詞文より困難なことを見出した。自他対応動詞文は音韻的・意味的に類似するが、文構造は非対格動詞文が複雑なことが原因と思われる。 ③ 失語症は語の想起に障害を示す。若年健常者を対象に、名詞絵の命名課題を、干渉語を同時呈示する条件下で実施し、意味的に近い干渉語は絵の命名を妨げ、連想関係では促進することを明らかにした。名詞より動詞で干渉量が減少する品詞効果は、干渉語間の心像性をマッチさせると消えた。失語症例にも同様の検査を実施予定である。 平成28年度は、①を日本高次脳機能障害学会で、②を国際学会で発表し、現在、投稿準備中である。③は平成27年度に国内学会で発表し、高次脳機能研究への投稿原稿を作成した。さらに申請者が会長を務めた第19回神経心理学研究会にマンチェスター大学のランボン・ラルフ教授を招待し、健常者と脳損傷者の言語・意味、高次脳機能に関してご講演頂くとともに、上記の研究について議論した。
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