本年度(29年度)は、前年度からの継続で、話者の文化的自己観、土着志向性、共通語や地域方言に対する顕在的言語態度、バーバルガイズ方式による潜在的言語態度などを調査するための4種類の調査を行った。結果的に、当初予定していた被験者のうち、転居等で連絡のつかなかった4名を除く、19名に対する面接調査を完了した。また、本調査開始時以降、ニセコ町が地域社会としてどのように変容したのかを把握するために、最新の人口統計資料(2017年5月発行版)を町役場の協力により入手した。また、ひらふ地区を中心とした、外客誘致・観光関連商業施設の看板や広告、街角の案内掲示等を含めた言語的景観の変化を把握した。 研究の成果として、本研究プロジェクトの主題である「土着アイデンティティー」の複合性とそれと因果関係にある方言変異の実態が把握できた。土着アイデンティティーは、1)地域社会のグローバル化に対するイデオロギー(反対派・賛成派・中立派)、2)文化的自己観(個の認識と主張・評価懸念・独断性・他者への親和と順応)、3)土着方言や共通語に対する言語態度(連帯感・威信・標準意識・方言意識)などの社会心理的要因から複合的に構成されると見なされるべきであり、それらの構成要素が、方言使用に関するアンケート調査などから明らかになる意識的言語態度と因果関係にあることが判明した。(一方、道産子意識といったマクロな尺度でのアイデンティティーの数値化では、言語使用意識との規則的相関は見いだせなかった。)また、現在までのところ一部の被験者の分析結果に基づいた判断ではあるが、自然談話に観察される無意識的な方言使用の変異性には、特にグローバル化に対するイデオロギーとの因果関係があり、反対派住民ほど土着アイデンティティーが焦点化される話題において、方言的音声への無意識的なスタイルシフトによる方言誇示の傾向が観察された。
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