研究実績の概要 |
2016年度は、本プロジェクトを締めくくる最終年度として、論文の公開と口頭発表, 書籍の刊行を行った。 特に、本プロジェクトの中核的な問として提示した「幼児はいつ、どのように、そしてなぜ、時制に関して未指定あるいは文構造の刈り取られた(Rizzi 1993-1994) 段階を経るのか」という内容について、記述的理論的研究をまとめ、世界の幼児言語に広く観察される主節不定詞現象が、日本語においてはオノマトペあるいは「-た」形であらわれる疑似不定詞があるとする仮説をより精緻化し再提案し、アジアの幼児言語においても、ヒンズー語、韓国語、中国語などの幼児言語を比較検討することによって、動詞形に時制が顕在化しない段階について、その特徴における共通項を引き出し、疑似不定詞現象と呼ばれる動詞の形式の変異について対照言語的に考察した。 これらの研究をもとに、最終年度には、生成文法理論(ミニマリスト理論)の枠組みで、普遍文法の一部として提案されている併合とラベリングがいつどのように獲得されるのかについて仮説を提示し、主節不定詞現象の時期は、併合は獲得されているが、ラベリングの母語特性については習得の中間段階の過程にあるとする仮説を提案した。 さらに、これらの学術的な研究を、よりわかりやすく広い読者層を対象として『日本語文法ハンドブック: 言語理論と言語獲得の観点から』(村杉恵子、斎藤衛、宮本陽一、瀧田健介編集)を開拓社より出版した。村杉は、第3章ならびに第6章、第13章において、本プロジェクトの研究成果をふまえて平易なことばで言語獲得について執筆した。また、本プロジェクトを基礎とする次のプロジェクトに向けて、幼児言語において時制のみられない動詞形のひとつとし、ミメテイックスの構造と項の獲得の芽生えについて 考察をはじめ、本プロジェクトのもつ意義についても研究をまとめた。
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