研究課題
日本語史研究は、従来、日本語の歴史を歴史として叙述するということについての方法論的検討が不十分であった。そこで本研究では、(1)言語史における歴史叙述の方法についての基礎的検討を行い、(2)その方法論にもとづき、日本語文法史における具体的事実をとりあげ、言語史叙述を試みることを目的とするものである。平成28年度はこのうちの(1)、すなわち基礎的検討については、日本語における歴史叙述の方法が歴史言語学一般に寄与できる側面についての検討をさらにすすめた。これまでの西洋言語学における歴史言語学の方法である比較法は印欧語族を対象にした際に際立つ手法であるのに対して、日本語史はその表記の複雑さを活かした形での方法、たとえば、文字字体史研究の叙述の方法、あるいは、複雑な形での言語接触である漢文訓読を通して形成された語彙史の叙述方法が、歴史言語学の方法一般として、歴史言語学に寄与できる点を論じた。また、(2)については平安時代語の係り結び(とくにゾによるもの)の検討を通じて、動詞活用形の変遷・係り結びの消滅とその事情という点を検討した。ゾによる係り結び文とは「(主題A)+B+ゾ+C〈=連体形準体句〉」という構造をもつ拡大名詞文であり、「Aとされるものは何かといえば、ほかならぬBあるいはB+Cである」という意味構造をもつ特立構文であるということを論じ、文末が連体形で終止することの意味としては、準体句述語により拡大名詞文を形成し、指定文の意味構造をなすことで特立するものであるということを明らかにした。これをふまえると、係り結びの消滅は連体形の機能弱化によるものと考えられ、また、中世語に見られる連体形終止もそれを原因と考えてよいと思われる。以上の点を、言語史叙述の構造という基礎的側面から見れば、この現象は変化の因果関係により組織化・統合化された言語史叙述に位置づけられる。
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How to Learn? Nippon/ Japan as object, Nippon/ Japan as method
巻: - ページ: 256-284
日本語史叙述の方法
巻: - ページ: 1-25