新潟県北部は、東北方言と越後方言が接する境界地域にあり、音声事象の諸側面において過渡的な様相を呈する。本研究は、そうした地理環境を背景とする現象、つまりは①ガ行入り渡り鼻音、②イ段・ウ段音の中舌化を取り上げ、それらの現状と動態を音響分析により、また約10年前に実施した全区画調査との経年比較を通して明らかにする。 一昨年度は、まずは上記の実態を大局的に捉えるべく、北部と中部の代表1地点に焦点を絞り、それぞれ80~20代を対象とする音声の実地調査を行った。昨年度は、各代表地点をさらに密に見る調査と、それらの周辺地点を関連的に見る調査を並行して行った。本年度は、以上の2ヶ年の調査から、現象の痕跡が明確である地点、個人差が大きく安定しない地点を選定し、これまでに明らかになった知見を検証するための補充調査を行った。 その結果、①に関しては、1)全域的に80~50代までは入り渡り鼻音の痕跡がみとめられること、2)しかし語や発音によっては破裂音にも現れ、安定的とは言いがたい現状であること、3)また40代以下になると現象レベルを問わず、痕跡自体が皆無となること、4)地点・個人によっては発音実態のない知識レベルの痕跡が主体となりつつあること、5)従来の鼻濁音地域に鼻濁音は残存せず、現状としては入り渡り鼻音か破裂音かの対立と捉えられることが明らかになった。 一方、②に関しては、1)全域的に中舌化の衰退が急速であること、2)しかし中舌化は弱まりつつも、低母音化の度合いは一定程度保たれているものがある(またそれは聴覚的には中舌がかった音に聞こえる)こと、3)残存するものの中ではウ寄りに現れるタイプが大多数である(それはかつてイ寄りとされてきた地域でも同様である)こと、4)つまり中舌化の現状は、衰退の動きが主体である中、一部低母音化の維持やウ寄りへの実相変化を示すものがあることが明らかになった。
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