研究課題/領域番号 |
26370528
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
肥爪 周二 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (70255032)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 音節構造 / 訓点資料 / 撥音 / 促音 / 音便 |
研究実績の概要 |
築島裕編『訓点語彙集成』(全九巻)の第二回の調査を、第四巻まで行った。第一回の調査において、方針未決定のために採集から漏れていた語例を補うことが出来た。 東寺(八月)・石山寺(七月・十二月)において訓点資料の調査を行った。東寺において拝観した資料は以下の通り。『大日経疏音義』(一冊・室町後期写)は、『大日経疏』の巻音義で、単字・熟語を掲出し、字音(仮名・声点)、和訓を注記する。字音は原則として呉音系字音であるが、漢音系字音も、かなり目に付く。また、「経〈ケイ、キヤウ〉」「激〈ケキ、キヤク〉」のように、呉音・漢音系字音を併記することも多い。和訓の音便形として注意されるものに、「地〈ヨトコロ〉」「唯〈ウケタマハヌ〉」「拱〈タンタイテ〉」等があった。また、「逐之〈シタカムテ〉」と、ハ行四段動詞の音便形の表記に「ム」を用いた例があるのが注意される。他のハ行四段動詞の音便形は、「貿〈カフテ〉」「儀〈ヲモフテ〉」「効〈ナラフテ〉」等ののフ表記、「奮〈フルウテ〉」「人ニ面〈ムカウテ〉」のウ表記、「導〈シタカツテ〉」のツ表記、「招召〈マネキヨハテ〉」の零表記の例が指摘できる。『三教指帰巻下』(一巻・建久八年写)の漢字音は、概ね漢音系字音によるが、呉音系字音も混じる。両音の併記もある。「茶(平)〈(右)ト・(左)チヤ〉蓼(上)〈レウ〉」の例は、高山寺蔵『恵果和尚之碑文』(延久承暦頃写)に「茶蓼 チヤレウ(五オ)」東大国語研究室蔵同書(長暦天喜頃加点か)では、「茶蓼 トレフ(六五)」となっているのが思い合わされる。石山寺においては、引き続き『成唯識論』寛仁点の調査を行った。 東京大学国語研究室蔵『大日経疏』治安四年点・『大日経疏』永久二年点については、勤務先にて継続的に調査を行っている。 また、オノマトペにおける撥音の歴史を明らかにするために、抄物や近世文献についても調査を行い、論文にまとめた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2016年2月に、東京大学出版会より『古語大鑑』第二巻が刊行された。研究代表者は、当辞書の編集委員、実務を担う中核メンバーの一人であり、この編集作業に忙殺された。当辞書は、訓点資料の用例を豊富に採用していることで高く評価されており、本研究計画とも深い関連を持ったものである。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)築島裕編『訓点語彙集成』の調査・整理作業を継続する。前年度までに複数回目を通す予定であったが、二回目の中途で作業が中断している。個々の語例を精査しつつ、問題点を再検討し、今後調査すべき訓点資料の選定を進めていく。 (2)研究代表者の勤務先が所蔵する訓点資料、および複製本等の調査を引き続き行う。特に、国語研究室蔵『大日経疏』治安四年点・同蔵『大日経疏』永久二年点については、勤務先にて継続的して調査を行う。その他前田本『三宝絵』、天理図書館本『日本往生極楽記』などについても、複製本により調査を行う。 (3)近畿地方の社寺(東寺・石山寺など)において訓点資料の調査を引き続き行う。ただし、石山寺については、今年は三十三年に一度のご本尊開帳の年に当たり、恒例の夏の調査については現時点では予定が定まっていない(冬の調査は行われる予定)。ここ数年来、調査を継続中の『成唯識論』の他に、『秘蔵宝鑰』建久九年(一九九八)点の拝観を希望している。東寺についても、調査の采配をしていた方のご逝去があり、こちらも、恒例の夏の調査が行えるのか、不確定な面がある。 (4)前年度の研究の結果として、調査範囲を広げて、抄物や近世文献についても、ある種の用例を集める必要が生じたので、引き続き、それらの調査も続ける。 (5)『古語大鑑』の三巻以降の編集作業は、今年度も継続されるが、二巻を刊行した直後でもあり、比較的、時間の余裕は生じている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
少額の端数が生じたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度予算に繰り入れて、必要なものの購入に充てる。
|