濁音始まりの付属形式がどのように発生したかについては、連濁の起源とも密接に関わる問題であり、さらに、連濁については、日本語の清濁対立の形成との関係が先行研究によって指摘されている。具体的には、複合語の形成を契機に、初期の濁音が発生し、子音の清濁対立が出来てきたとする考え方である。一言で言えば、連濁の発生によって濁音が生まれたとするものである。 濁音は、古代語の単純語にも現れるので(その濁音は、事実上、2音節語の2音節目に現れるものにほぼ限られる)、この考え方に従うと、これらも連濁によって形成されたことになる。要するに、濁音を持つ2音節語には、歴史的には1音節語と1音節語の複合に由来するものが少なからずあるということである。実際、ナベのような例があり、もとはナ(菜あるいは魚)とヘ(食器)の二語の複合であるとする語源が説かれている。 他方、先行研究によれば、古代語にはザ行の連濁例が他の行(ガ行、ダ行、バ行)に比べて際だって少ないことが明らかにされている。その原因は、ザ行の音声が、破裂音のガ・ダ・バ行と違って、破擦音(あるいは摩擦音)であることと何らかの関係が疑われる。 しかし、上記のような2音節語について調べてみると、2音節目に来る濁音のうち、ザ行が他の行に比べて少ないわけではない。だとすれば、これらについては、連濁とは異なる生成を考えるか、あるいは、それらの濁音を清音に還元する考え方自体を見直すか、再考しなければならなくなる。 濁音始まりの付属形式についても、否定辞(打ち消し)のズ、助動詞ジといった例がある。これらも連濁から派生したとは考えられないだろう。このように、古代語の濁音に関しては未解決の問題が存在する。語頭に現れないという濁音の配列則に対しては、実際にはもっと複雑で、多元的な形成過程を考える必要があるのかもしれない。さらに考えていくべき今後の課題である。
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