研究課題/領域番号 |
26370543
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
中川 美和 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 助教 (00301408)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 表記 / 書記 / かなづかい / 異体仮名 |
研究実績の概要 |
当該年度は、藤原光俊(真観)筆資料について、データベース作成をすすめるとともに、冷泉家時雨亭文庫蔵『躬恒集』(建長四年本)について、親本とされる西本願寺本三十六人集『躬恒集』との比較を通して考察を行った。研究結果は2014年12月に「国文学言語と文芸の会」2014年度大会にて研究発表した。発表要旨は次の通り。 建長四年本『躬恒集』はかなづかいのレベルでは、いわゆる定家かなづかいを忠実に守っており、これは『範永朝臣集』(時雨亭文庫蔵本)など同じ真観筆本の特徴と合致している。また、異体仮名のレベルでは、字母の異なり字数は平均2.6字と他の真観筆資料よりも多く、稀少仮名が使用されている。複数の異体仮名の使い分けには、位置による書き分けや、語表記の傾向がみられた。そのほか、和歌の二行書きや、踊り字は行頭・句頭を避ける、といった特徴がみられた。 建長四年本と西本願寺本とを比較すると、かなづかいおよび異体仮名の両面で両者はまったく対応していない。とくに建長四年本にみられるモを表す〈ん〉字が西本願寺本と対応していない点については、親本の影響でないとすると、建長四年本が独自にこの表記を採用したという想定をせざるをえない点で、問題が残る。 以上のように、真観筆資料のなかでも、歌数の多い『躬恒集』を研究対象とし、その親本と比較しながら考察を加えることで、他の真観筆の資料でも同様の傾向がみられることを確認するとともに、同じ真観筆資料にみえる書記の特徴を裏付けするものとなることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
藤原光俊(真観)筆資料について、予定通り調査を進めている。 本年度調査分析し学会報告した『躬恒集』(建長四年本)は、真観筆資料のうち、私家集のなかでももっとも大部なものである。『躬恒集』の全歌が揃っているテキストでもあり、すでに調査した中規模、小規模のテキストと書記の様相が一致することを確認することができた。また、他の資料にない特徴もみられた。 次年度より『古今和歌集』(天理図書館蔵本)の調査を進める予定だが、私家集と勅撰集の違いや、定家かなづかいの適用のありかたの違いなどの比較を行うための前準備が整ったことになる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず、本年度までの調査結果をふまえて、『古今和歌集』(天理図書館蔵本)の調査を進める予定である。 該本は真観筆ではないが、真観筆本をかなり忠実に書写したものとされている。真観が定家かなづかいの忠実な実行者であり、『下官集』および定家筆『古今和歌集』を直接見る機会があった可能性を考えると、天理図書館蔵『古今和歌集』の書記の調査は重要な意味をもつ。該本が真観が自ら書写したものではないという欠点は、これまでの真観筆私家集の調査により補いうるものと考える。また、私家集の書記実態と比較することにより、真観の書記の様相や、定家かなづかいの受容の実態をさらに具体的に細かく把握できるのではと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
少額の端数が使い切れずに残った。
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次年度使用額の使用計画 |
315円と端数で少額であるので、次年度の予算と合わせて使用する。
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