本研究は、寛政期にトンキン通事(ベトナム語通訳官)魏 龍山が編纂した『訳詞長短話』他の語学資料を対象に、その中に認められる近世後期長崎方言の要素を、現在方言と関連づけていくことを目的とする。 研究期間中は主に文法分野に取り組んだ。とくに〈動詞の活用〉に関する研究、および〈人称詞を含む敬語表現〉に関する研究を中心的に行った。 トンキン通事系語学資料の日本語訳文には、活用が一定しない動詞が見られ、現在の九州方言との関連が想定される。敬語については、資料の中心言語である中国語の表現より、場面に応じた細かい使い分けがなされていた。それを方言史に位置付けられるか、さらに検討したい。
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