研究課題/領域番号 |
26370556
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
三好 暢博 旭川医科大学, 医学部, 教授 (30344633)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ミニマリストプログラム / 統語論 / 一致 / 一致の弱化 / EPP / Labeling Algorithm |
研究実績の概要 |
人間言語に固有の現象である移動現象を探求することで人間言語の計算特性を解明するという試みは、生成文法の特筆すべき研究指針の一つである。この論点に関して、一致現象(Agreement Phenomena)の研究が果たして来た役割は大きく、移動等の統語操作の認可条件に関する理論に重要な知見を与えてきたと言っても過言ではない。本研究の目的は、一致の弱化(weakening/impoverishment of agreement)という現象の経験的事実を整理・分析し、その理論的含意を明らかにすることで言語理論の深化に寄与することにある。一致の弱化とは、一致の弱化とは、特定の統語環境下で、主語と動詞の一致が、規範的には具現せず、一部を欠落した一致形態素が具現化する現象を指す。例を挙げると、通常語順では、人称・数・性の一致形態素が動詞に現れるが、主語と動詞の語順が倒置した場合には、動詞に現れる形態素が人称形態素のみに限定されるという現象である。このような現象は、主語後置 (post-verbal subject)や反一現象(主語にA’-移動が適用された際に、主語と動詞の一致が弱化する現象)で観察される。 この一致の弱化の研究は、今後の言語理論進展の方向性を占う上で、重要な意味を持つと考えられる。Chomsky(2013)以降提唱されたラベル決定のアルゴリズムでは、一致自体の存在をラベル決定のメカニズムに求める可能性が示唆されており、一致のメカニズムの解明は、理論を深化させるために不可欠な作業である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度である26年度は次年度以降の研究の基盤を形成するための、言語資料の収集と整理を行う。複数の語族にまたがる一般化の提示と言語差異の記述を目標とする。(27 年度前半に終了予定)。検討予定とした、主語と動詞の倒置語順に関しては、イタリア語及びイタリア北部諸方言(フィオレンティーノ方言、トレンティーノ方言、コネリアーノ方言)及びアラビア語(標準方言・モロッコ方言)の後置主語に関する現象の収集・分析をほぼ終了した。欠落している素性する素性には一定の階層性があるのが現時点での観察である。また、アラビア語等の性素性が関与する形態レベルでのimpoverishment等とは性質が異なるというのが暫定的な結論である。反一致現象に関しては、ニジェール・コンゴ語族(キナンデ語 [バンツー語群])、印欧語族ケルト語派(ブレトン語)、イタリア北部方言(フィオレンティーノ、トレンティーノ)のWH疑問文を中心に分析を行い、キナンデ語 [バンツー語群]の焦点化構文の資料の整理を行った。この点からおおむね順調に進展していると考えられる。 また、次年度以降の研究の基盤を形成するために、拡大投射(EPP)素性と一致のとの関係を調査するための準備に着手した。特に、Chomsky(2013)以降提唱されたラベル決定のアルゴリズムでは、一致自体の存在をラベル決定のメカニズムに求める提案がなされている。この提案は、27年度以降に予定している、一致とEPP素性の関係の研究する上で無視できない提案であり、本研究との整合性を検討する作業に着手した。一部の成果を研究発表として口頭発表を行ったものの、十分な結論に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
27年度は、倒置語順と一致の関係に関する言語資料の分析を継続するとともに、一致関係におけるEPP素性の役割の解明を目標とし、一致の弱化のメカニズムを明らかにする。提示した分析の予測を明らかにし、随時、予測の検証を行う。一致関係におけるEPP素性の役割の解明に関しては、Chomsky(2013, 2014)で提案されているラベル決定のアルゴリズムの予測も同時に検証していく。一致関係におけるEPP素性の役割の解明を句構造理論等に還元しうるという提案に十分留意して研究を進める。この際、ラベル決定のアルゴリズムに依拠した移動操作が経験的にも存在するか否か、EPP単独の移動操作の存在を含めて調査を進める。また、一致関係におけるEPP素性の役割の解明という目標に向けて、英語等の虚辞や繰り上げ構文、wager class verbを対象とした予測の検証を行う予定である。その上で、アイスランド語のexpletive topicやドイツ語のVorfield es (文頭制約のある虚辞)との整合性を検証することになるであろう。特に、Chomsky(2014)で提案された、EPP素性とthat-痕跡効果を結びつけるという主張は、26年度に取集した言語事実と必ずしも一致するものではないため、一致の弱化の観点から、最新の言語理論の動向注視していく予定である。暫定的ではあるが、26年度の研究結果より、一致に弱化により欠落する形態素性には広義の規則性があると考えられる。これが、統語形態素性間に一種の階層構造を認める必要を示唆しているかどうかも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度の研究計画であるEPPの関係の研究を遂行する上で、Chomsky(2013)以降提唱されたラベル決定のアルゴリズムの仮説を検証する必要がある。この仮説は、一致自体の存在をラベル決定のメカニズムに求めるというもので、句構造に関する書籍の購入が新たに必要となるため、次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度以降取組むEPP素性の役割の解明に必要とされる文献の内、句構造に関する書籍が、大幅に不足しているため、関連書籍の購入に充て、ラベル決定のアルゴリズムと本研究の関係(位置づけ・整合性)を明らかにする。
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