研究実績の概要 |
本研究は、生成語彙意味論の枠組みを用いて英語と日本語の名詞の事象構造を分析し、種々の構文における名詞のふるまいについて、意味の共合成やタイプ強制という観点から説明することを目的とする。名詞は一般に個体名詞と事象名詞に分けられるが、本研究では、個体を表す名詞も事象を含意することに着目し、その事象性の含意が項の選択や修飾関係、さらには軽動詞構文や複雑述語の形成において意味の合成プロセスに関わることを、日英語の比較分析によって明らかにする。 今年度は、特に動作主名詞の事象性について一定の成果を上げることができた。動作主名詞には、事象への関与を含意するものとそうでないものがあるが、この点に関して、Pustejovsky (1995)は、場面レベルと個体レベルの名詞という分類を導入している。これは次のような例で示される。(『場面レベルの名詞」pedestrian, passenger, customer, smoker, winner:「個体レベルの名詞」violinist, professor, doctor, author, magician) 日本語の方に目を移すと、日本語は場面レベルと個体レベルの動作主名詞を形態的に区別するといわれる(影山1999, 2002)。例えば、前に述べたdriverの多義的な意味は日本語では次のように区別される。( 運転手「個体レベル」Telic = drive (e, x, y: vehicle): 運転者「場面レベル」Agentive = drive (e, x, y: vehicle) 今年度は、日本語の動作主名詞、「ー者」「ー手(しゅ)」「ー手(て)」「ー主(ぬし)」「ー家(か)」などについて、上記の区別による分析を行い研究論文にまとめた。本論文は海外出版社より出版予定である。
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