研究実績の概要 |
今年度は,ここ数年の著しい生成文法理論の発展を考慮しつつ, 主語条件ならびにNP内からの要素の抜き出しに関する理論の構築を行った.
英語と異なり, 日本語では主語条件の効果が見られないことが先行研究において指摘されてきた. この日英語の違いに関する代表的な分析は, 日本語の主語がVP内に留まるため, VもしくはINFLによって適正統率されるとするものであったが, 近年の研究によって日本語の主語はCP(領域)まで上昇していることが明らかにされた. 今年度は大関洋平氏との共同研究のもと, CPがphaseを形成すると仮定し, 日本語の主語がCPまで上昇するため, 次のphase領域から可視的になることが自然に導かれると主張した. 英語の主語については, Epstein, Kitahara and Seely (2012, 2013)の枠組みを採用し, 主語がtwo-peakedの構造を形成するため, 次のphase領域からは不可視的になるのである. さらに, 提唱する分析にとって日本語のComp-Trace効果の欠落が問題にならないことを示した. また, トルコ語ではagreementがあるにもかかわらず主語条件の効果が見られないことから, agreementの存在が必ずしもCに位置するEPPのTへの素性継承を誘発するわけではないことをわかった. NP内からの要素の抜き出しについては, PPはNP内からの抜き出しが可能であるとTakahashi and Funakoshi (2013)が主張している. この主張が正しいとすると, なぜNPは抜き出せないのであろうか. 本研究では, 属格の「の」がNP外では認可されないため, NPの移動が許されないことを明らかにした.
本年度の研究成果を踏まえ, 来年度は主語条件に関する実験を行い, 構築した理論の精密化を図る予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は, ここ数年の著しい理論発展を考慮し, 日本語における主語条件の効果に関するデータ収集を次年度に回し, phaseならびにagreementの有無に基づく新たな理論を構築した. 理論構築に関しては, 平成27年度に予定していた比較統語論的な研究まですでに進めている.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は, 今年度に予定していたデータ収集を終え, そのデータ分析を行う. さらに, Chomsky (2013, 2014)の枠組みにおいて, 主語条件ならびに付加詞条件について構築した理論の精密化を図り, 最終的にEPPの存在意義について考える予定である.
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