研究課題
発話によって伝達される意味には、明示的意味(表意)と非明示的意味(推意=いわゆる含意)があることはよく知られている。Sperber and Wilson (1986) は、発話の認知処理モデルを提案し、中央系の性格から、オンライン発話処理における推論には演繹の削除規則のみが関わると主張するが、ある種の発話はそれでは導出できない推意を伝達し、推意導出に関わる推論はもっと多様であることをこれまで明らかにしてきた。本研究は、日英語の推意に関わる様々な言語現象のデータを対象に、発話の推意導出メカニズムを明らかにすることを第1の目標とする。これは、推論導出に関係する推論規則の特定とプロセス制御に関する一般制約の規定提案を意味し、最終的には、コミュニケーションにおいて人が行う推論メカニズムの全体像解明を目指すものである。平成28年度は、前年度に引き続いて、推論規則に関する研究の最新情報を入手しつつ、演繹の削除規則以外の推論規則が推意を導出しているデータの収集を続けた。これらは、帰納の抽象化(アブストラクション)と、演繹でも帰納でもないアブダクション(所謂「ひらめき」に相当)によって引き出される推意のデータ収集作業を意味するが、コーパスでのキーワード検索では見つけにくいタイプなので、時間のかかる作業となった。しかし、これらのデータは、若干の修正を加えつつも、前年度に立てた仮説を確証しており、その認知的導出プロセス及び知識の拡大を伴うか否かに基づき、演繹される分析的推意と創作される拡張的推意の2分法を提案することにつながった。これは、「オンライン発話処理プロセスには演繹の削除規則のみ関わる」という上記説を反証し、推論導出に関係する推論規則を特定したことを意味する。これは同時に、当該プロセス制御に関して何らかの上位制御機構が働いていることを示唆し、そのメカニズムも明らかになりつつある。
2: おおむね順調に進展している
ストーリーの抽象化(アブストラクション)やアブダクションのデータは、コーパスのキーワード検索では見つけることが難しいため、データ収集に多くの時間がかかるが、仮説確証は順調に進んでいる。
予定通りに進める。
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『<不思議>に満ちたことばの世界』開拓社
巻: 1 ページ: 465-470
Papers from the Thirty-Third Conference and from the English International Spring Forum of The English Linguistic Society of Japan (JELS 33)
巻: 33 ページ: 209-215