研究実績の概要 |
英語の時の副詞句の出現の有無や位置と完了形の解釈の間の相関関係は、従来、完了形の構造的・意味的多義性の根拠とされ、その反証データについては、データの信頼性の欠如が指摘されてきた(Portner 2011)。本研究では、現代英語のコーパスを利用し、その相関関係を検証し、構造的・意味的多義性に依拠することなく、新たに情報構造から捉え直し、形式意味論・語用論で分析することを狙いとした。 平成26年度、事象の継続時間を表すfor句を取り上げ、その文中での位置や出現の有無と現在完了形の継続用法・非継続用法の解釈の違いに見られる相関関係は、コーパス調査により語用論的傾向に過ぎないことが分かり、情報構造で捉えることが可能であることが分かった。 平成27~28年度、時の副詞nowを取り上げ、完了形以外の相・時制の文にも観察される副詞句の位置の意味解釈への影響とその談話機能は、文頭の時の副詞句・節を、領域設定子(Jacobs 2001)と捉え、その領域設定子の持つ対照主題性(Krifka 2008, Hinterwimmer 2011)から説明が可能であることが分かった。 平成29年度(最終年度)は、時のsince句・節と現在完了形の解釈との関係のコーパス調査を追加し、ここでも現在完了形の構造的多義性に根拠が無いことを示した上で、副詞nowについての情報構造に基づく分析を、for句、および、since句・節と現在完了形の解釈傾向にも応用した。 その結果、英語の現在完了形について、継続用法と非継続用法の間の解釈の違いは、多義性ではなく曖昧性(vagueness)として捉えられることが、コーパスに基づくデータによって示され、時の副詞句の位置との間の相関関係は、語用論的な傾向として情報構造から説明出来ることが分かった。
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