研究課題/領域番号 |
26370568
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
縄田 裕幸 島根大学, 教育学部, 教授 (00325036)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生成文法 / 統語論 / 英語史 / 言語変化 / 情報構造 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,後期中英語から初期近代英語における主語位置の通時的・共時的変異に対して情報構造がどのように関与したかを明らかにすることである。この目的の達成のため,26年度は中英語において2つの主語位置が情報構造上どのように使い分けられていたかを明らかにすることを計画した。それに対する成果の概要は以下の通りである。 まず,中英語から近代英語にかけて主語位置がどのように推移したかを通時的コーパスの調査により明らかにするとともに,近年の極小主義の理論的枠組みに基づいて分析を行うことができた。具体的には,初期中英語において2つの統語的位置が主語の情報ステイタスによって使い分けられていたのに対して後期中英語でそのような機能的役割分担が消失し,さらに近代英語期には主語を認可する統語的位置が1つに収束したことを明らかにした。この一連の変化は,異なる機能範疇主要部を占めていた数と人称の一致素性が下方推移しながら統合されていったという Nawata (2009) の提案から予測されるものであり,主語は一致素性とともに文構造を通時的に下降していったことになる。 またこの分析の帰結として以下の経験的・理論的帰結を得ることができた。第一に,他のゲルマン系言語でしばしば観察される他動詞虚辞構文が後期中英語に出現して近代英語期中に消失した理由についても自然に説明できることを示した。第二に,豊かな一致形態素の存在が顕在的動詞移動を一方向的に含意するというBobaljik (2002) の一般化に対してより妥当な説明を与えることができることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では,26年度は「後期中英語の主語位置の分布に対する情報構造の影響を明らかにする時期」,27年度は「後期中英語から初期近代英語にかけての主語位置の変遷を記述・説明する時期」としてそれぞれ位置づけられていた。26年度は,当初の予定を越えて27年度に予定されていた初期近代英語の主語位置の変遷についても扱うことができたという点では計画以上の進捗を得ることができたが,他方で,26年度分の計画に関する「後期中英語における2つの主語位置が機能的に役割の分担されていない統語的自由変異であった」という結論はいまだ検証の余地が残されている。そこで,本研究は全体としては「おおむね順調に進展している」と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
26 年度における研究の成果を受けて,27年度も引き続き主語位置が後期中英語から初期近代英語にかけてどのように変遷したか(主語位置がどのように統一されたか)を実証的に・理論的に明らかにする。具体的には,既存の電子コーパス(Penn-Helsinki Parsed Corpus of Early Modern English)と独自データベースによって主語位置の変遷に関する事実を明らかにし,それをカートグラフィーの手法を用いて理論的に説明する。 また,研究の進捗状況に応じて,主語位置の変遷が同時期に観察される他の統語変化(that痕跡効果の出現,心理動詞構文における奇態格主語の消失など)にどのような影響を与えたかについても理論的に解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度予算のうち27年度に繰り越す差額が生じたのは,文献調査およびコーパス分析に予想外の労力がかかり,海外調査旅費に充てていた予算が未使用であったのが主な理由である。27年度はこの繰り越し予算を有効に活用して英語史研究および理論言語学に関する最新情報の収集に努めたい。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度の研究費使用計画は以下の通りである。物品費:初期近代英語関連図書および理論言語学関連図書/旅費:調査研究旅費(レイキャビク,東京)成果発表旅費(大阪)/その他:印刷複写費。26年度からの繰り越し分は初期近代英語関連図書および理論言語学関連図書として使用する。
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