研究実績の概要 |
「~がいる・ある」という存在の意味は、英語では一般に「there+be動詞+主語」という鋳型をもつ構文で表される。本研究では、場所の指示機能のない虚辞のthereの起源、鋳型の確立年代、およびthere構文の史的発達過程の解明に取り組んだ。 最終年度は、1425年~1510年の『パストン家文書』と1535年~1611年の聖書を主に分析し、鋳型に合致するthereは15世紀中頃に場所を指示する機能を失い、虚辞となったが、主語になりうる代名詞としての[pronominal]という素性は維持し続けたことを解明した。この素性は、印欧祖語の指示代名詞to(=that)+r(=副詞を作る語尾)に由来するゲルマン祖語のther(場所を表す現在のthere)に内在していたものであり、現在も therefore, therein, therewith などの複合語のthereの「それ」という意味に残されていることを指摘し、この素性を持つthereが「動詞に先行する」主語の位置を占めてから、文法上の主語としての機能を獲得したという結論を導いた。 3年間の研究で解明できたthere構文の史的発達過程を要約すると、「古英語と中英語では、時や場所の副詞または前置詞句が文頭に生じると、Under the table is a catやThere is a catのように、被修飾語の動詞はその直後に置かれたが、中英語後期に動詞に先行する位置は主語の領域とみなされると、主語の資格のない前置詞句に代わってthereが挿入されたUnder the table there is a catという構文が一般的となり、それに伴いthereは場所の指示機能を失った。その後、前置詞句は文末に移動し、現在では一般的なthere 構文であるThere is a cat under the tableが定着している」となる。
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