研究実績の概要 |
最終年度はまず5月に日本英文学会における再帰構文中のself の存在意義について発表した。これは、中世英語では人称代名詞のみでも再帰の機能が果たされるため、selfは頭韻のための道具として人称代名詞に付随して用いられたのが始まりのように解釈する理論言語の立場に反論して、頭韻のためだけではなく初めから格変化を共有する代名詞として用いられていたことを、詩とrhythmical prose の両者を調査することにより詳細なデータで立証したものである。そののち7月にはイギリスで国際英語正教授学会の前のMedieval Symposium において古英語と中英語の間の過渡期における動詞形の変化について発表した。これは、形態論的見地から、古英語の文法規則にそぐわない形が生まれることにより、統語的変化に移行していく様子を説明したものである。そののちの本会では、関係節の中に人称代名詞が残る形の構文が中世英語を通じて見られたことを報告し、中世から近代英語にかけて、関係代名詞だけではなく構文自体の変化が起り、これが現代の英語構文への橋渡しとなっていくきっかけであったことを例証した。これらの発表により、迂言用法研究のまとめの一部を発表したことになる。この学会の前後にBritish Library において写本研究を行ったが、十分ではなかったので、9月にもう一度イギリスに出向き、London のBritish Library, Oxford のBodleian Library, Cambridge のUniversity Library において、改めて写本研究を行った。これは研究のまとめをするにあたり、どうしても写本に帰る必要のある部分を確かめる必要があったからで、これにより、9章から成る迂言用法の成果を出版する準備ができた。
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