研究実績の概要 |
本研究では、音韻理論の最新成果を踏まえながら、健常児における音韻知識および音韻意識の様相を、特に超分節レベルに焦点を当てながら、障害児の音韻発達データと比較分析する。このような健常児と障害児のデータを比較分析することで、読み障害のスクリーニング・診断に役立つ基礎資料を提供するとともに、音韻理論の妥当性を英語と日本語の音韻発達データを使って検証していくことを目的とする。
従来、日本語の韻律研究は、自立モーラと特殊モーラ(撥音/N/、促音/Q/、長母音の第2要素/R/、二重母音の第2要素/J/)間で観察される違いに焦点を当てていたが、近年では、特殊モーラ間にみられる差異に目を向けつつある(田中2008、那須2009など)。とりわけ、特殊モーラの特性を捉える上で聞こえ度による基準と音韻構造上の自立性に基づいた基準のどちらが妥当であるかという点においては議論が分かれている。
小学生対象に行なった逆唱実験のエラーを分析し、音韻発達上、聞こえ度と構造上の自立性のどちらがより影響を及ぼしているのかについて検証した。被験者は小学生58名(小1 27名、小6 31名)で、使用した課題語は第3モーラの位置に特殊モーラを含む4モーラ無意味語であった(例:pokoJta, pokoRta, pokoNta, pokoQta)。逆唱実験の結果、第1、第2モーラの結びつきの強さを示すエラーは/R/と/Q/を含む課題語に顕著に現れ、第2、第3モーラの結びつきの強さを示すエラーは/J/と/N/を含む語であった。この傾向を説明する上で、聞こえ度は直接関与していないことが窺える。逆に、音韻構造の観点からみてみると、自立性の高い/J/と/N/は音節レベルのつながりの影響を受ける傾向が強いのに対し、自立性が低く、他の要素と枝分かれ構造を成している/R/や/Q/はそのような音節の影響は受けていないことが示唆される。
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