本研究では、局所性条件に関して「空範疇原理効果」は「狭義の統語論」 で統語構造に適用される制約によるものであるが、「下接条件効果」及び「取り出し領域効果」は、 「外在化過程」で、韻律構造に適用される制約によるものであると提案した。この考え方は、「下接条件効果」及び「取り出し領域条件効果」は顕在的移動にしか見られないが、「空範疇効果」は顕在的・潜在的移動両方に見られるという事実を、自然に導き出せる利点 も持つ。局所性を示す領域と移送(Transfer)の適用される領域を同じく扱うアプローチを提案した。局所性を示す領域と移送領域とでは、その領域内からの内的併合(Internal Merge)・移動(Movement)が許されないが、束縛原理(C) (Binding Condition (C))に従う束縛、媒介変数束縛(variable binding)、長距離一致(Long-distance AGREE)が許されるという共通点があることに注目した。局所性を示す領域は付加詞と同じように扱うという方向性は以前から提案されているが、それに従い局所性領域はPair-Mergeにより順序対をなしていると考えた。そして、移送という操作も、移送領域が文字通りに狭義の統語論での操作領域(workspace)から取り除かれるのではなく、Pair-Mergeにより順序対をなすことにより狭義の統語論での操作から接近不可能になるとした。これにより、狭義の統語論ではなく意味部門または音韻部門での現象と考えられる、束縛原理(C)、媒介変数束縛(variable binding)、長距離一致に関しては、局所性領域および移送領域ともに接近可能であることを統一的に扱うことができることを示した。
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